会社で同意もなく役員を解任されることは、不当解雇にあたるのか?
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令和2年11月、藤沢市にも店舗がある大手外食チェーンの社長を始めとする役員10名が、株主総会によって解任されました。大手企業の役員解任劇は、世間の注目を集めました。
また、上場企業に限らずとも、株式会社の役員は、さまざまな事情により解任されることがあるのです。本コラムでは、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が、役員が同意なく解任された場合の対処法を解説します。
会社側が役員を解任するために必要な手続きとそれに対抗する手段、相談先などについて解説しますので、突然の解任にお困りの方や解任される可能性を感じられている方は、ぜひ参考にしてください。
1、役員の解任に必要な手続き
会社側が、「経営上の理由で業務縮小をしたい」「経営の方針が一致しない」「役員が不祥事を起こしたなど」の理由で役員を解雇するためには、以下の手続きが必要となります。
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(1)任期満了による退任
ある役員について会社側が解任したいと思っていても、穏便に手続きを進めるために、任期満了を待つ場合があります。
基本的に、役員の任期は、定款で規定していなければ2年です。監査役の場合には、4年となります。
これらの任期が到来した場合、再任されなければ自動的に役員に選任されることはありません。
したがって、そのまま役員の任が解かれることになるのです。
任期満了による退任は、正確には「解任」とはいえません。
しかし、これまで当然に再任されていた人がある期間から役員の立場を失ってしまうことは、実質的には解任に等しく受け取られる場合もあります。
なお、任期満了による退任の場合、会社で規定されていれば退職慰労金を受け取ることが可能です。 -
(2)任期前に解任する場合?株主総会決議
任期が到来する前に役員を解任するためには、「株主総会の決議」という手続きが必要になります。これは、会社法第339条1項で規定されています。
解任のために他に正当な理由がなくても、株主総会で役員の解任が決議されれば、それだけで解任をすることが可能です。
株主総会を開く際には、取締役会設置会社の場合、取締役会で株主総会の招集を決めて、株主総会の招集通知を株主に送付します。取締役会は、過半数の取締役が出席していれば開催することができます。つまり、解任対象の役員以外の役員が当該対象の役員の解任に賛成をしていれば、取締役会の開催と決議は可能になるのです。
役員が株主でなければ、本人が不在の株主総会で役員を解任されてしまうことになります。株主総会で、出席した株主の議決権の過半数の賛成があれば、役員は解任されます。 -
(3)任期前に解任する場合?解任の訴え
株主総会招集による解任以外にも、少数派株主による「解任の訴え」によって解任を求められる場合があります。
取締役自身が多数派株主である等の理由で株主総会決議が得られない場合には、少数派株主は、この手続きを検討するでしょう。
「解任の訴え」は、株主が裁判所に解任を求めて裁判を申し立てることで進行します。
訴訟で解任が認められた場合には、当該役員は解任されることになります。
ただし、裁判で解任が認められたとしても、次の株主総会で再任されることを会社側が防ぐことはできません。
2、不当に役員を解任された場合の対抗手段を解説
役員を解任されると、法人の登記簿に「解任された」という旨が記載されてしまいます。また、解任されることで、役員報酬や退職慰労金も支払われなくなってしまう場合もあります。
解任された役員としては、地位を失うだけでなく、経済的デメリットも生じることになります。
したがって、不当に役員を解任された場合には、以下のような対抗手段を検討しましょう。
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(1)会社への損害賠償請求
株主総会による役員の解任は、いかなる理由であっても、株主総会の決議があれば認められます。
しかし、解任に正当の理由がない場合には、役員が会社に損害賠償を求めることができるのです。
不当に解雇された役員が会社に請求できるお金は、以下の通りです。- 残った任期中に受け取れたはずの役員報酬相当額
- 任期満了後に受け取れたはずの退職慰労金相当額
ただし解任に正当の理由がある場合には、賠償を求めることはできません。
正当な解任理由の例としては、以下のようなものがあります。- 役員が病気やケガ等で職務の遂行が難しい場合
- 役員に著しいコンプライアンス違反があった場合
- 役員に法律に違反する行為があった場合
- 役員に著しい職務能力不足があった場合
逆に言えば、これらに該当しない理由で解任された場合には、会社側に損害の賠償を請求できる可能性があります。
その際には、後述する相談機関や弁護士にまでご相談ください。 -
(2)解任手続きの正当性を問う
解任手続き自体に問題がある場合は、解任された事実を無効にできる可能性もあります。
役員の任期が満了する前に解任する場合は、株主総会の決議を得なければなりません。そして、株主総会を招集する場合には、株主に株主招集通知を送付する必要があるのです。
基本的に、上場企業であれば、株主招集通知を送付する等の手続きを経ずに役員を解任することはほとんどないでしょう。
一方で、同族企業や規模が小さい企業では、経営陣の一部が株式の大半を有していることもあり、正当な手続きを経ずに解任を決定することもあります。
そのような場合には、解任された役員や株主が「株主総会決議の取消の訴え」を裁判所に申し立てることができるのです。
株主総会決議の取消の訴えが認められた場合、解任の決議は効力を失い、解任が無効にされる可能性があります。
株主総会招集の手続きに不備があると考えられる場合は、「株主総会決議の取消の訴え」を検討するとよいでしょう。ただ、この手続きは煩雑であり、手続きの正当性を的確に判断することは、日頃法律を取り扱っていない方には難しい手続きになります。
株主総会決議の取消の訴えを検討されている方は、弁護士にご相談することをおすすめします。
3、任期の定めのない役員の場合はどうなる?
役員に任期がない有限会社の役員の解任について、解説します。
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(1)有限会社の役員の解任
株式会社は、必ず役員の任期を定めなければなりません。
一方で、有限会社は役員の任期を定める必要がないのです。
平成18年の会社法の改正によって、有限会社の新規設立はできなくなりましたが、既に設立済みの有限会社は、特例有限会社として存続しています。
特例有限会社の役員を解任する際には、株式会社の場合と同じように、株主総会(社員総会)の決議が必要とされます。 -
(2)任期のない有限会社の役員は賠償金の請求ができない可能性がある
旧商法の規定では、任期がある取締役のみ正当な理由のない解任の際、損害の賠償を請求できるとされていました。
有限会社の役員は任期がないため、解任されても損害賠償が請求できないおそれがあるのです。
ただし、実際に請求できないかどうかは、具体的な状況によって変動します。詳細な判断については、弁護士にまでご相談することをおすすめします。
4、不当に役員を解任された場合は弁護士に相談
役員の解任が不当である場合には、解任の無効や賠償金を請求できる可能性があります。
ただし、いずれの手続きでも、会社法などの法的知識が求められます。そのため、法律の専門知識を持たない方が、ご自身で対応するのは困難です。
役員の解任について疑問がある場合や、会社と争う決意をされた場合には、弁護士にまでご相談ください。
特に、企業法務を取り扱っている弁護士への相談をおすすめします。
基本的に、弁護士であれば、どんな法律問題でも対応できます。しかし、それぞれの弁護士ごとに、得意としている分野や注力している分野もあるのです。
役員の解任に関する相談は、会社法や民法等の知識が問われ、会社との交渉も必要になります。
企業法務の経験が豊富な弁護士であれば、煩雑な手続きを適切に代行しつつ、会社との交渉も対応することができます。役員の解任手続きが正しく行われているかどうかも、的確に判断することができます。
役員の解任について、無効を主張したり、損害賠償金を請求したい場合には、企業法務を取り扱っている弁護士にご相談ください。
5、まとめ
会社側が役員を解任する場合には、株主総会の招集と出席した株主の議決権の過半数の賛成が必要になります。そして、株主総会を招集するためには、取締役会を開催して過半数の取締役の賛成を得なければなりません。
これらの手続きを正しく行っていない場合には、役員の解任が無効となる可能性があるのです。
また、役員解任の手続き自体は正当なものであったとしても、その理由が正当でなければ、会社に対して損害賠償請求をすることができます。
ベリーベスト法律事務所グループには、企業法務や労働問題を専門とする弁護士が多数在籍しております。
湘南藤沢オフィスでも、グループ内の弁護士と協力しながら、役員の解任に正当性があるかどうかの判断から損害賠償請求等の手続きまで、総合的にサポートいたします。
神奈川県藤沢市や周辺市町村で、役員を解任されてお困りの方は、ぜひ、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスにまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています