営業職でも残業代を請求できる？ よくある違法残業の請求方法について

営業職では、営業成績が評価の対象となり、給与の歩合にも反映されることから、時間を気にせず働くことが多くなりがちです。
また、日中は外回りしていることが多いので、翌日の準備（資料作成、見積書の作成、契約書の作成など）や事務作業などは夜間に行う、という方も多いでしょう。
そのため、営業職のなかには、所定労働時間を超えて働いてしまう方が多々おられます、

その他、取引先の都合に合わせるために夜間に訪問することや、接待のための夕食などをすることもあるでしょう。そうすると、帰社する時間も必然的に遅くなります。

逆に、朝早く出社して資料を準備するような人もいます。「朝早くに出社することは、残業ではない」と考える人もいますが、実際には、仕事をするために早出したのであればそれも残業になるのです。

いずれにせよ、営業職は自分の都合だけで時間をコントロールすることが難しい職種であるために、残業が発生しやすい状況にあるのです。

1. （1）歩合給であることを理由にする違法残業

   典型的な違法残業のケースとして、会社側から「営業職は歩合給だから残業代はでない」と言われる場合があります。
   つまり、「報酬は成績に応じて支払われるものだから、時間は関係ない」という理屈です。
   
   しかし、歩合給制であったとしても法定労働時間を超える残業代については、割増賃金
   が発生します。
   そのことから、歩合給であることを理由として残業代が得ないということは事実ではないといえます。

2. （2）固定残業を理由にする違法残業

   会社側が「固定残業代または定額の営業手当を支払っているから、残業代は発生しない」と主張する場合もあります。
   
   しかし、固定残業代を支払っているからと言って、一切残業代を支払わなくてよい、ということにはならないのです。
   
   固定残業代とは、「一定時間の残業が発生することを前提として、その一定時間分の残業代は、残業したか否かに関わらずに支払う」というものです。
   したがって、一定時間を超えた場合には、その分の残業代は追加で支払われなければなりません。
   
   また、「定額の営業手当のなかに残業代も含まれている」として、残業代を支払わないというケースもあります。
   その場合には、まずはその営業手当の性質について確認しましょう。
   営業手当の内容として「何時間分の残業代が含まれている」かが明確にされていなければならず、それがはっきりしない場合には、残業代が含まれているとは認められないのです。
   また、基本給と残業代部分が明確に分離していない限り、固定残業代として認められません。

3. （3）みなし労働を理由にする違法残業

   営業職の場合、外回りをするので、時間管理がしづらいということがあります。そのため、「事業場外みなし労働時間制」という制度が採用されている場合が多くなっております。
   事業場外みなし労働時間制とは、労働者が業務の全部又は一部を事業場外で行う場合に、その労働時間に係る算定義務を免除して、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできるという制度です。
   
   この制度を採用している場合には、外で働いた時間はたとえ法定労働時間である8時間を超えたとしても、残業代（時間外手当）は支払われなくなります。
   しかし、19時に外回りから帰ってきて、事業場である会社内で21時まで残業したような場合には、19時から21時の2時間はみなし労働時間の対象外なので、残業代を請求することができるのです。

1. （1）証拠の保全

   残業代を請求するためには、「どれくらい残業しているか」を、具体的に証明する必要があります。
   請求する際には、タイムカードや出退勤記録、あるいは出社時刻と退社時刻が記録されている日報などがあれば、それらを証拠として確保しましょう。
   また、自分専用のパソコンがある場合にはパソコンのログも証拠になります。
   そして、従業員の立場では取得は難しいことも多々ありますが、ビルの入退出記録やビデオカメラの映像なども、有力な証拠になるのです。
   
   物理的な証拠がない場合には職場の同僚などの証言も証拠として認められます。
   どうしても明確な物的証拠が手に入らない場合には、証言をしてもらえるかどうか、同僚に確認をしておきましょう。
   
   また、残業の規定がどうなっているかを確認するために、就業規則が必要となります。
   さらに、残業代が支払われないことを明らかにするため、給与明細も必要になるのです。
   
   コロナ禍を原因とするリモートワークの普及により、最近では、営業職であっても在宅勤務ということも多くなっていると思われます。
   リモートワークの場合には、タイムカードや同僚の証言などが証拠としての効力を持たず、証拠を保全することが難しくなる可能性があります。
   パソコンの起動時間によって管理されている場合には、その記録を確保するようにしましょう。
   
   パソコンの起動時間の管理がなされていない場合にも、業務終了の報告をメールで行うなどしていれば、終了時刻が記録として残っていると見なされる可能性があります。
   また、電話で業務終了の報告をする場合には、何時に電話したかをメモや日報に記録するなどして、終了時刻を明確にしておきましょう。

2. （2）請求の手順

   残業代を請求する際には、証拠をそろえたうえで、「残業代が未払いなので、支払ってほしい」という旨を会社に伝えましょう。
   ただし、残業代を払っていない会社が、性急に簡単に応じるとは限りません。そのような場合には、交渉に時間がかかる可能性があります。
   
   請求しても会社が残業代を支払わないのであれば、労働基準監督署に相談や通報をすることできます。
   残業代未払いについて労働基準監督署に通報すれば、立ち入り検査が行われる可能性があります。検査の結果、残業代を支払うように改善勧告がなされれば、会社が残業代を支払ってくる可能性が高まります。
   
   また、会社との交渉を弁護士に依頼する、という方法もあります。
   弁護士が交渉の場に立つことで、残業代を請求することに対するこちらの真剣さが会社側につながり、残業代が支払われる可能性があります。会社との交渉が決裂した場合でも、弁護士に法的手続きを依頼することができます。
   
   労働基準監督署からの勧告に従わなかったり、弁護士を立てても交渉に応じなかったりする場合には、労働審判をすることになるでしょう。
   労働審判とは、解雇や給料の不払いなど、事業主と個々の労働者との間の労働関係に関するトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続きです。
   
   労働審判は、3回以内の期日で審理を行い、双方から意見を聞いて当事者間での話し合いにより調停を勧め、調停ができないときは審判を出します。審判に従えない場合には、訴訟手続きに移行することになるのです。

労働者としては、「残業をした」という証拠を持っていれば会社は残業代を支払ってくれるものだ、と思われるかもしれません。

しかし、元々残業代を支払わないできた会社である以上、証拠を示したからと言って簡単に払ってくれるとは限らない、という点に注意が必要です。

さらに、会社の総務や会社側の顧問弁護士など、法律に精通した人が交渉に立ち、労働者に反論する可能性もあります。そのような状況で、労働者が1人で会社と交渉することは、困難を伴うでしょう。

労働者が会社と対等に法律的に戦うためには、法律の知識をもった弁護士に依頼することが有効です。
もし交渉が決裂した場合にも、早い段階から弁護士に依頼しておくことで、労働審判や訴訟で会社側の弁護士と対等に争いやすくなります。

本コラムでは、営業職における違法残業の問題や、残業代請求の注意点について解説しました。
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