仕事でミスをした従業員に罰金などのペナルティーを与えるのは違法?
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法律事務所では、企業の経営者の方から「仕事でミスをした従業員に罰金を与えたい」「従業員がミスをして会社に損害を与えたから、賠償を請求したい」「減給はできるか?」といったご相談を受けることがあります。
しかし、仕事でミスをした従業員に罰金などのペナルティーを与えることは、労働基準法に違反して罰則の対象になる可能性が高く、原則として行わないほうがよいでしょう。また、会社が従業員に損害賠償を請求しても、認められないケースは多くあります。
本コラムでは、従業員のミスがあった場合にペナルティーを課すことや、損害賠償請求や減給処分関する注意点やミスをした従業員への対応などについて、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。
1、ミスした従業員に罰金などペナルティーを課すのは違法?
従業員は、業務中のミスや顧客対応の失敗などによって、会社に損害を与えてしまうことはあります。
しかし、従業員のミスなどに対して罰金などのペナルティーを課すことは、原則として認められません。
以下では、企業が従業員に罰金を科すことや損害賠償を請求することに関する、法律的な扱いを解説します。
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(1)罰金を科すことができるのか?
企業のなかには、「遅刻をした場合には罰金●●円」といったペナルティーを課す制度を設けているところがあります。
しかし、このような罰金制度や損害賠償を予定するような制度を設けることは、労働基準法に違反しています。
労働基準法16条によって、違約金や損害賠償額を予定する契約は禁止されているためです。
ただし、罰金制度ではなく、懲戒処分として、一定の要件のもとで減給を行うことは可能です。 -
(2)従業員に対する損害賠償はできるのか?
違約金や罰金といった制度を設けることは禁止されていますが、従業員が会社に具体的な損害を与えたような場合には、損害賠償を請求できる可能性があります。
- 従業員の故意による損害 たとえば、会社の金銭の横領や会社の物を盗むなど意図的に会社に対して加害行為をした場合には、原則として、会社に生じた損害の全額に対する賠償を請求することができます。
- 従業員の過失による損害 労働は人間が行うものであるために、ミスが起きることは避けることができません。
業務中にミスが起きるリスクは、ミスをした従業員ではなく、その従業員に指揮・命令し、かつ、その従業員を使用することで利益を得ている会社(使用者)が負担するべきものと考えられています。これを「危険責任・報償責任の法理」といいます。
また、会社から従業員に対する損害賠償請求を無制限に認めると、従業員に過酷な経済的負担を負わせることになってしまうでしょう。
上記の理由から、判例では、損害の公平な分担のために、会社から従業員に対する損害賠償については一定の制限を加えています。
具体的には「事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情」を考慮して、ケース・バイ・ケースで「相当と認められる限度」に限定して損害賠償を行うものとされているのです(最高裁昭和51年7月8日判決 茨城石炭商事事件)。
近年では、会社が従業員に対して損害賠償を請求する裁判例も多くあります。
しかし、裁判所は、通常の過失やミスによる損害の請求を認めない傾向にあります。
従業員に重過失があるケースでも、損害の全額ではなく、会社の責任(予防措置、従業員に対する指示の適切性など)を考慮に入れたうえで、賠償金額を減額する場合が多々あるのです。
2、減給の場合は、懲戒処分の根拠が必要となる
罰金制度をあらかじめ設けることは、労働基準法に違反します。
では、従業員の度重なるミスなどを理由に減給することはできるのでしょうか?
以下では、減給に関する法律的な扱いを解説します。
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(1)減給を行える有効要件
・就業規則の規定と処分事由への該当
減給処分は、懲戒処分の一種です。
懲戒処分には、減給のほかにも戒告・けん責、出勤停止、降格、解雇などがあり、これら懲戒処分を行うためには、就業規則に規定があることが必要になります。
具体的には、就業規則に、「懲戒処分として、減給を行うことができること」と、「減給を行う処分理由」が、具体的に定められていなくてはなりません。
就業規則に定められた減給の対象となる処分理由に該当する場合に限り、減給処分を行うことが可能になるのです。
・就業規則の手続き
就業規則によっては、減給処分を行う前に、「弁明の機会を付与する」などの手続きが定められていることも少なくありません。
減給をする場合には、これらのルールに従った処分になっているのかどうか、手続きを確認する必要があります。
・権利濫用法理
減給処分は、戒告・けん責の処分と異なり、従業員の経済的利益に影響する処分です。
決して軽い処分ではないため、対象となる行為は減給処分に相当するほどの違反行為や問題行動である必要があります。
したがって、問題行動が軽度であるにもかかわらず減給処分とすることは、無効とされる可能性があるのです。
労働契約法15条では、行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、当該の懲戒は無効になることを定めています。
実際の裁判例でも、減給処分を無効と判断したものが存在します。
したがって、減給処分を行う場合には、慎重な判断が必要になるのです。 -
(2)減給の限度額
減給処分は、従業員の生活にも直結する影響があるため、無制限に行うことはできません。
労働基準法では、一定の限度が設けられています。
具体的には、労働基準法91条では、ひとつの事案における減給額は平均賃金の1日分の半分以下、複数の事案における減給の総額は一賃金支払い期の賃金総額の10分の1以下のものでなければならない、と定められているのです。
ニュースなどでは、「不祥事のため3カ月間報酬3割カット」などといった報道も耳にすることもあるでしょう。
しかし、その対象は取締役の役員報酬などです。一般の従業員のように労働基準法が適用される雇用契約ではないからこそ、大胆な処分が可能となるのです。
減給の限度額は労働基準法91条で定められており、従業員に対する3割などの減給は労働基準法に違反することになるので、注意してください。
3、労働基準法に違反した場合に企業が受ける罰則は?
従業員に対する罰金制度を設けて罰金をとることは、労働基準法16条に違反します。
また、減給の限度額を超えた場合には労働基準法91条に違反することになります。
このように、企業が労働基準法に違反した場合には、企業に刑事罰が科される場合があります。
従業員に対する罰金や減給の限度額を超えた減給も、労働基準法違反として刑事罰の対象になってしまうのです。
どのような違反行為がどのような刑事罰の対象となるのか、具体的には、違反した行為の悪質性により、以下のような刑罰が科されます。
労働基準法では、この類型が最も重い刑事罰です。
強制労働の禁止に違反した場合には、この刑事罰の対象になります。
② 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
次に重い罰則の類型です。
最低年齢未満の児童を労働させる行為などがこの類型に該当します。
③ 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
この罰則の対象になる違反行為は広範に亘りますが、従業員から罰金をとるなど、労働基準法16条に違反した場合が含まれています。
その他、三六協定違反などの労働者に違法な時間外労働をさせる行為や時間外労働、深夜労働、休日労働についての割増賃金の不払いなどが該当します。
④ 30万円以下の罰金
この罰則の対象になる違反行為も広範ですが、減給の限度額の制限に反して減給を行う労働基準法91条に違反した場合が含まれています。
その他、休業手当の不支給や就業規則の作成・届出義務違反などが対象になります。
以上のように、従業員から罰金をとるなど労働基準法16条に違反した場合には、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則の対象となります。
また、減給の限度額の制限に違反して減給を行い労働基準法91条に違反した場合には、30万円以下の罰金の罰則の対象となるのです。
4、ミスの多い従業員への適切な対応は?
以下では、ミスの多い従業員に対して、企業がとりうる対応について解説します。
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(1)指導、注意など
ミスの程度や会社の損害の大小にもよりますが、一般的には、従業員にミスがあった場合にいきなり有効な減給といった懲戒処分を実施できるケースはそれほど多くはないでしょう。
企業としては、日頃から従業員のミスについてできる限りの改善案を提示して、指導や注意を行うべきといえます。また、ミスをした事実や、これに対して指導や注意を行ったという事実は、始末書の提出を求めたり、指導や注意をした旨の報告書を作成するなどして記録として残しておきましょう。
将来、当該の従業員に損害賠償請求を行うような場合には、「従業員に何度もミスがあった」「会社が改善のために適切な指導などを行った」という事実が立証できると、会社側に有利な事情として考慮されるためです。 -
(2)減給処分などの懲戒処分
どうしても指導や注意で改善しなかった場合などには、懲戒処分を検討することになります。
ミスの内容に応じた相当な処分である必要があるため、減給処分が適切かどうかは、慎重に検討しなくてはなりません。
個別的な事情によっては、懲戒処分のうち、減給より軽い戒告・けん責の処分にとどめるべき場合もあるでしょう。
5、まとめ
従業員がミスをして会社に損害を与えた場合でも、罰金を取るなどしてしまうと労働基準法違反となるため、慎重な対応が必要になります。
減給処分を行えるのか、損害賠償を請求できるのかといった点は、個々の事案に応じた判断が必要になります。
その際には、法律の専門知識も欠かせません。
ベリーベスト法律事務所では、労務問題について豊富な取り扱い経験があります。企業の経営者で、従業員への対応についてお困りの方や、就業規則の見直し・改定を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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