親権停止とは? 虐待から子どもを守るための方法を詳しく解説

2021年08月12日
  • その他
  • 親権
  • 停止
親権停止とは? 虐待から子どもを守るための方法を詳しく解説

親からの虐待や子どもの面倒を見ないネグレクトに関するニュースの報道が増えています。実際、平成31年4月から令和2年3月までの1年間に、神奈川県が所管する5か所の児童相談所(ただし、横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市を除く)ので受け付けた虐待相談受付件数は、6704件です。この数字は、前年度と比較して1356件(25.4%)の増加です。また、件数としては、過去最多に上っています。

もし、実際に危険な状態にある子どもを見かけた場合、子どもを守るためにはどうしたらよいのでしょうか。

本記事では子どもを守るための制度である親権停止について、その概要や手続きの流れやについてベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、親権停止とその目的

  1. (1)親権停止とは

    親権停止とは、家庭裁判所の審判によって親権を停止し、親権者と子どもを一時的に引き離す制度です。法律では民法834条の2第1項にて規定されています。また、同条の第2項において、親権停止の期間は最長2年と定められています。

    親権停止制度の主な目的は、親子関係の完全な断絶ではなく、一定期間に限って親権者と子どもを引き離し、親子関係の修復を図ることです

  2. (2)親権停止を申し立てる目的

    親権停止が認められるのは、法律で、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」と定められています。

    「父又は母による親権の行使が困難」なときとは、親権者が罪を犯して服役中であるような場合、薬物中毒で本人の生活自体もままならないような場合、精神障害などで長期入院している場合などが当てはまります。

    父又は母による親権の行使により「子の利益を害する」というのは、主として虐待や虐待に類似した状況です。具体的な虐待の態様には、次のようなものがあります

    ● 身体的虐待
    子どもの身体に外傷を生じるような暴力を加えることをいいます。
    (例)殴る、蹴る、首を絞める、激しく揺さぶる、熱湯をかける、熱いものを身体に押し当てる、重いものを身体に落とす、溺れさせる、逆さづりにする、食事や水を与えない、寒い時や猛暑の時に戸外に締め出すなど。

    ● 性的虐待
    子どもにわいせつな行為をすること、させることをいいます。
    (例)性的暴力をふるう、性交、性的行為の強要、性器を触るまたは触らせる、性器や性交の場面を見せるなど。

    ● ネグレクト
    子どもの心身の正常な発達を妨げるような、長時間の放置、保護者としての監護の責任を怠ることをいいます。
    (例)十分な食事や睡眠を与えない、他のきょうだいの面倒を親に代わって過度に子どもに見させる、家に閉じ込めて外との交流を絶つ、学校に登校させない、乳幼児を家に残したまま度々外出や外泊をする、病気やけがの時に病院に連れて行かない、下着や衣類を長期間着替えさせない、真冬でも極端な薄着をさせる、手洗いや洗髪などの身の回りの世話を放置する、大量のごみのなかで生活させる、保護者以外の同居人による身体的・性的・心理的虐待などがあるのに保護者が見て見ぬふりをして放置するなど。

    ● 心理的虐待
    児童に著しい心的外傷を与える言動を行うことをいいます。
    (例)子どもの自尊心を傷つける発言を繰り返す、脅し、脅迫めいたことを言う、子どもを無視したり、拒否的な態度を繰り返す、子どもの目の前で配偶者や同居する家族などに対して暴力をふるうなど。

    また、親権停止には上記のような典型的な虐待事例の他、以下のような「親権の行使が不適当」な場合も含まれます

    ● 医療ネグレクト
    (例)乳児につき直ちに治療及び手術を受けなければならなかったが、親権者は治療は同意するものの子を見舞う回数も少なく、おむつや洋服の補充を求めても直ちには対応せず、病状や治療方針を伝えるための面談の予定をキャンセルしたり、大幅に遅れて来院したり、平日は父母ともに働いており、子に面会に行く時間が取れないと述べている事例
    (例)乳児につき早期に手術を受けなければ衰弱して死亡する可能性があると診断されたが、親権者の宗教上の理由から輸血に事前の同意をしなかった事例

    ● 親権者に監護養育の実績も意思もない場合
    (例)祖母の妹に育てられている子について何らかの疾病が疑われるが、親権者が正当な理由なく医療行為に同意しないため、詳しい検査や定期的通院が困難な事例

    ● 諸手続きへの非協力
    (例)軽度精神発達障害のある中学3年生が特別支援学級に進学する入学手続を親権者が取ろうとしない事例
    (例)親権者である父から暴行を受け、自立援助ホームで生活している高校3年生につき、就職先の会社からパスポートの取得を求められているなど、就職の諸手続きを進めるためには親権者の同意が必要であるが、親権者が協力を拒んでいる事例

2、親権停止の効果

  1. (1)親権の内容

    親権とは、未成年者の子どもを監護・養育すること、子どもの財産を管理し、代理人として法律行為をする権利や義務のことです。

    父母は、婚姻中には共同して親権を行使することになっています。しかし、離婚の際には、父母のいずれか一方のみを親権者としなければなりません

    日本では離婚後の共同親権は認められていません。そのため、離婚する夫婦の間に未成年の子がいる場合には、その子の親権を父又は母のうちの一人に決めなければ離婚届は受理されないのです。

    親権を父母のどちらが取得するかは、通常は夫婦間の話し合いで決めます。しかし、話し合いで決着がつかない場合は、家庭裁判所の調停や審判で決定することになります。

    親権を取得した親は、子どもと一緒に暮らして世話をしながら養育します。また、親権者とは別に監護権者を指定して、親権者に子の財産を管理したり子の代理人となることができるといった権利を残しつつ、親権者でないもう一方の親を監護権者として子どもと一緒に暮らし世話ができる権利を与えることもできます(民法766条1項)
    なお、親権を取得しなかった親も、親としての責任がなくなるわけではありません。親としての扶養義務は親権とは関係なく継続しますので、たとえば、養育費を支払う義務などが発生します。

  2. (2)親権の停止によって親権者ができなくなること

    では、親権を停止すると、親権者や子どもの生活にどのような影響がでてくるのでしょうか。
    まず、親権が停止されても、法的な親子関係や血縁関係が消滅してしまうわけではありません。したがって、子どもに対する扶養義務や、親が死んだ場合の子どもの相続権などは変わりません。

    ただし、親権を停止された親権者は、停止された期間は、監護養育権を失うので子どもと一緒に住むこと、子どもの身の回りの世話などをすることができなくなります。また、財産管理権も失う結果、子どもの財産を管理することもできなくなります。

  3. (3)親権停止期間中の子どもの親権はどうなる

    夫婦が婚姻中である場会、つまり、共同親権を行っている場合、その片方(たとえば母)について親権停止がなされた場合、自動的にもう一方の親権者(この場合は父)が単独で親権を行使することとなります。

    他方で、離婚などでもともと単独親権者であった親の親権(たとえば母)を停止した場合は、自動的に他方の親(この場合は父)に親権が認められるわけではありません。単独親権者について親権停止がなされると、未成年後見が開始するものと定められています(民法838条1号)。

    ただし、未成年後見人は、親権停止とは別の選任の手続きを行わなければなりません。なお、児童福祉法の改正により、適切な未成年後見人が選任されるまでの間は、児童相談所の所長が親権を代行できるようになりました。

  4. (4)親権停止期間中に親権者がすべきこと

    親権の停止期間は、その期間が終了した後に、子どもと親権者がもう一度共に暮らしていけるかどうかを判断するための時間でもあります。したがって、親権が停止された親権者は、その期間に自分自身と向き合って、親としての人生を考え直していくことになります

    親として未熟な場合には、親自身が内面的に未熟で子どもに向き合えていないこともよくあります。まずは、親自身が自分を振り返るために、医師や精神面の専門家に相談することも考えられます。

3、親権喪失との違い

親権停止と親権喪失は、いずれも、子どもの福祉のために親の親権を制限する制度です。
その大きな違いは、親権停止制度においては、親権制限の期間が長くても2年間に限定されている点です

一方、民法834条に規定されている親権喪失は、期限が特に設けられていません。
つまり、親権喪失とは、親権を半永久的にその親から奪ってしまう制度なのです。

以前は、親権を制限する手段には親権喪失しかありませんでした。しかし、実の親から親権そのものを将来にわたって奪うことが子どもにとって本当に望ましいことなのか、現場で判断するのは難しいことです。

そのため、児童相談所などが子どもの救済の場面で行動しようとしても、親権喪失の手続きには二の足を踏むということがありました。その結果、児童相談所の判断が遅れて、子どもの身体に危険が及んでしまったケースも発生しています。

そうした経緯を踏まえて、2012年に新たに規定されたのが親権停止の制度です。親権停止は、親権喪失に比べて期間も短く、要件も緩やかであり、子どもの救済や福祉のために使いやすい制度である点が優れています

4、親権停止を申し立てるときの手続きの流れ

ここからは、誰が親権停止の申し立てをできるのか、そして、実際に裁判所へ親権停止を申し立てる場合の流れを見ていきましょう。

まず、親権停止の申し立てができるのは、子ども本人、子どもの親族、検察官、児童相談所長、未成年後見人、未成年後見監督人に限られています

未成年後見監督人とは、2012年の制度改正時に新しく追加されたもので、未成年後見人の事務を監督する役割を担う人のことです。いずれかに該当する申し立て権利者が、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に対して、親権停止の申し立てを行います。

申し立てに必要な書類は以下の通りです。

  • 親権停止の求める内容の申立書
  • 子どもの戸籍謄本・現在の親権者の戸籍謄本(親権者と子が同戸籍の場合は不要)
  • 申立人にその権利があることを証明する資料(戸籍謄本等)
  • 申し立ての理由(不適当な親権の行使により子の利益が害されている、親権者による親権の行使が困難などの事情)を示す資料
  • 所定の収入印紙・切手(必要額は裁判所によって異なる)

5、まとめ

児童虐待は増加傾向にあり、死亡や大けがをするといった悲しい結果に至る事件も増えています。たとえ重大な結果には至らなくても、親から、適切な愛情ある養育を受けられなければ、子どもの心には大きな傷が残り、成長にも影響が出てくる可能性があります。虐待やネグレクトなどの兆候が見られる場合は、そのような状態から子どもを守るために、親権停止の方法は検討すべきでしょう。

一方で、親権停止は、2年という期限があるとはいえ親権者と子どもを強制的に離すという大きなリスクを伴うものです。親子関係や子ども自身の将来に多分な影響をもたらす決断になるため、裁判所も非常に慎重に審判を行います。審理をできるだけスムーズに、かつ法的な根拠に基づいて確実に進めるために、親権停止の申し立てを検討する場合はできるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

親族関係のことや精神的な負担も大きいものです。そうした負担をひとりで抱え込まずに前向きに進めていくためにも、経験豊富な弁護士への相談をご検討ください。ベリーベスト法律事務所では、親権停止についても相談や受任の経験が豊富な弁護士が在籍し、ご相談を親身にうかがっています。ぜひ湘南藤沢オフィスの弁護士まで一度ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています