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法律トラブルで問題となる「善意の第三者」とは何か?

2023年06月08日
  • 一般民事
  • 善意の第三者
法律トラブルで問題となる「善意の第三者」とは何か?

民法などの法律では、「善意の第三者」という表現がしばしば登場します。

「善意」は独特の法律用語であり、日常的に用いられる「善意」とは意味が異なります。また、善意の対義語である「悪意」についても、法律用語と日常用語では意味が異なるという点に注意が必要です。

本コラムでは、法律上の「善意」「悪意」の意味や、不動産取引における「善意の第三者」の取り扱いなどについて、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。

1、法律上の「善意」「悪意」とは?

法律上の「善意」とは、ある事柄について「知らなかった」ことを意味します。
これに対して「悪意」は、ある事柄について「知っていた」ことを意味します。

法律行為の無効や取り消し、他人による物権の取得などが発生した場合には、間接的に、第三者の利益が脅かされる場合があります。わかりやすい例でいうと、Aが契約を結んでBに不動産を売り、さらにBが第三者にその不動産を売却した後で、Aが元の契約を取り消してしまったような場合です。この場合に、当該第三者を保護すべきかどうかの分かれ目となるのが「善意」と「悪意」です。

大雑把な言い方をすれば、第三者が「善意」であれば、取引上の信頼(取引の安全)を重視して、当該第三者を保護する方向に働きます
これに対して、第三者が「悪意」であれば、本来の権利者の保護を重視して、当該第三者を保護しない方向に働くのです。

2、不動産取引で問題となる「善意の第三者」とは

不動産取引においては、「善意の第三者」の取り扱いが以下のような問題と関わってくる場合があります。

  1. ① 心裡留保
  2. ② 通謀虚偽表示
  3. ③ 錯誤
  4. ④ 詐欺・強迫


  1. (1)心裡留保と「善意の第三者」

    「心裡留保」とは、「真意ではない意思表示」のことをいい、たとえば本気ではなく冗談のつもりで「Xを君に売る」と相手方に言うようなケースです

    心裡留保による意思表示は原則として有効で、自分が冗談のつもりで相手方に意思表示をしたとしても「あれは冗談だから無効だ」とは言えませんが、相手方が心裡留保であること(表意者の真意でないこと)を知っていたとき、または知ることができたときには、無効となります(民法第93条第1項)。
    ただし、表意者・相手方以外の第三者が善意で法律上の利害関係に入った場合には、心裡留保による意思表示の無効は、当該第三者に対抗できません(同条第2項)。

    たとえば、Aが所有する不動産Xを、Bに対して冗談で「売る」といい、BもAが本気でないことを知りながら「買うよ」と言ったとします。
    この場合、Aの不動産Xを「売る」という意思表示は、Bとの関係では心裡留保により無効となります。
    しかし、Bが不動産Xを「Aから買った」と称してCに売った場合、CがAの心裡留保について善意であれば、CはAに対して不動産Xの所有権を主張できるのです。

  2. (2)通謀虚偽表示と「善意の第三者」

    「通謀虚偽表示」とは、当事者が通謀して行う、虚偽の意思表示のことをいいます。わかりやすい例でいうと、AとBがお互いに不動産売買をする意思がないのに、しめしあわせてあたかも実際に売買したかのように見せかけるような場合です。

    通謀虚偽表示による意思表示は無効ですが(民法第94条第1項)、無効を善意の第三者に対抗することはできません(同条第2項)。

    たとえば、Aが所有する不動産Xにつき、Bと通謀したうえで売却を仮装し、Bへの所有権移転登記手続きを行ったとします。
    この場合、AB間における不動産Xの売買は無効となります。実際に売買するつもりがA
 もBもなかったのですから当然のことです。
    しかし、不動産XがB所有であることを信じたCが、Bから不動産Xを購入した場合には、CはAに対して不動産Xの所有権を主張できるのです。

  3. (3)錯誤と「善意の第三者」

    「錯誤」とは、法律行為の要素に関する「かん違い」のことです

    錯誤に基づく意思表示は、その錯誤が法律行為の目的・取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができます(民法第95条第1項)。
    ただし、錯誤に基づく意思表示の取り消しは、善意無過失の第三者に対抗することができません(同条第4項)。

    たとえば、Aが所有する不動産XをBが購入したものの、売買条件についてBが重大なかん違いをしていたことから、錯誤に基づき売買契約を取り消したとします。
    この場合、AB間における不動産Xの売買は、錯誤取り消しによって遡及的に無効となります。
    しかし、Bが重大なかん違いをしていたことを過失なく知らなかったCが、取り消し前にBから不動産Xを購入した場合には、CはAに対して不動産Xの所有権を主張できるのです。

  4. (4)詐欺・強迫と「善意の第三者」

    「詐欺」とは、他人を騙す行為を意味します

    詐欺に基づく意思表示は取り消すことができますが(民法第96条第1項)、善意無過失の第三者に対抗できません(同条第3項)。

    たとえば、Aが所有する不動産XをBが購入したものの、売買条件についてAがBに騙されていたことから、Aが詐欺に基づき売買契約を取り消したとします。
    この場合、AB間における不動産Xの売買は、詐欺誤取り消しによって遡及的に無効となり、本来はBがAにその不動産Xを返還しなければならないはずです。
    しかし、Aが騙されていたことを過失なく知らなかったCが、取り消し前にBから不動産Xを購入した場合には、CはAに対して不動産Xの所有権を主張できるのです。

    また、他人の「強迫」(=脅し)に基づく意思表示も、詐欺同様に取り消すことが可能です(同条第1項)。
    ただし、強迫に基づく意思表示の取り消しは、善意無過失の第三者に対しても対抗できる点が詐欺と異なります(同条第3項参照)。

3、「善意の第三者」に関する重要判例を解説

以下では、不動産取引に関して「善意の第三者」を保護すべきか否かが問題になった最高裁判例を紹介します。

  • 最高裁昭和45年9月22日判決
  • 最高裁昭和49年9月26日判決


  1. (1)通謀虚偽表示規定の類推適用に関する最高裁判例

    最高裁昭和45年9月22日判決では、不動産所有者Xと情交関係にあったBが、所有者Xの実印を勝手に持ち出して当該不動産をYに売却した事案が問題になりました。
    当該不動産については、所有者をBとする不実の登記がなされた状態でしたが、もちろん実際にはXは売買契約をまったく締結していないのですから、実際の所有者はXのままのはずです。そしてXとYとで通謀して売買したかのように見せかけたわけでもない(Bが勝手にやっただけ)ので、先ほど紹介した通謀虚偽表示とも本来は違うケースになります。

    本件では、実印を勝手に持ち出したBと不動産所有者であるXの間に通謀がないケースでも、通謀虚偽表示(民法第94条第2項)の規定に準じて、善意の買主であるYは不動産の所有権を取得できるか否かという点が争われました。

    そして、最高裁は「所有者が知らないうちに不動産が売却され、買主が所有権移転登記を経由した場合でも、所有者が不実の登記がされていることを知りながら、その存続を明示または黙示に承認していた場合には、民法第94条第2項を類推適用すべき」と判示したのです。
    そのうえで、Bから不動産を買い受けたYが、当該不動産の所有者がBではないことについて善意だった(知らなかった)場合には、Yが所有権を取得できると判示しました。

    本判例は、真の所有者に虚偽の外観作出に関する大きな帰責性がある場合には、虚偽表示について通謀がなくても権利を失う場合があるという「権利外観法理」を示したものとして、重要な意義があります。

  2. (2)詐欺における「善意の第三者」の範囲に関する最高裁判例

    最高裁昭和49年9月26日判決では、売主A・買主Bの間で締結された土地売買契約が詐欺を理由に取り消されたケースにおいて、取り消し前にBから当該土地を購入したCが所有権を主張しました。

    本件においては、所有権の帰属が問題になった土地に含まれる農地については、取り消された売買契約の買主であるBも農地法に基づく農業委員会の許可を得られていなかったために、まだ所有権を取得していない状態でした。
    また、Bからの転得者であるCは、当該農地について所有権取得の本登記を備えてはいないものの、仮登記移転の付記登記は備えていました。

    本件では、上記の事情を前提としたうえで、Cが民法第96条第3項に定められる「善意の第三者」に該当し、農地の所有権を取得できるか否かという点が争われました。
    原審は、「詐欺をした者から目的物を善意で転得した者が、その所有権取得について対抗要件を備えているときに限って民法第96条第3項が適用される」という旨を判示して、Cによる農地の所有権取得を認めませんでした。
    これに対して、最高裁は、「原審が指摘するような限定を行う理由は見出し難い」と指摘しました。
    そして、最高裁は「Bが農地法に基づく許可を取得し、当該農地の所有権を取得した場合、Cはその所有権を正当に転得できる地位を得ることを指摘して、Cが民法第96条第3項の「善意の第三者」にあたる」と判示したのです。

    このように、詐欺取り消しにおける「善意の第三者」は、対抗要件を備えた物権取得者に限られるわけではなく、それに準じた法律上の利害関係を持つ者も含むとするのが最高裁判例の解釈です。

    なお、同判例では、詐欺取り消し前に法律上の利害関係に入った第三者が権利を主張するため、登記を備える必要があるかどうかも論点のひとつになっていました。
    Cの条件付権利が仮登記によって保全できることを指摘していることから、最高裁は登記必要説に立っている、という見方もあります。
    しかし、判示において登記必要説が明言されているわけではなく、学説上も登記不要説が有力となっています。
    この論点については、依然として確立した見解が存在しない状況になっているのです。

4、法律トラブルは早めに弁護士へご相談を

不動産取引などに関して法律トラブルが発生した場合は、ご自身の利益や権利を守るため、法的な根拠に基づいた適切な対応をしなければいけません。

弁護士は、法律の専門知識や経験に基づきながらトラブルを丁寧に分析して、依頼者の権利や利益を守るためのサポートをいたします。
トラブルの深刻化や泥沼化を防ぐためにも、取引などについて問題が発生したら、まずは弁護士に相談してください

5、まとめ

日常用語とは異なり、法律用語である「善意」とは、ある事柄について「知らなかった」ことを意味します。
法律行為の無効や取り消し、他人による物権の取得が発生した場合には、その原因について「善意」の第三者は保護される可能性があります。

不動産取引などに関して法律トラブルが発生した場合、専門知識に基づいて事案の状況を冷静に分析したうえで、法律上の根拠に基づく対応を適切に行うことが重要です。
法律トラブルに巻き込まれた方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています

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