パワーカップルが離婚するとき注意すべき財産分与のポイントとは?
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近年、男女の両方が高収入の夫婦を指す「パワーカップル」という言葉が注目を集めています。
二人の収入や資産が多いことから、パワーカップルが離婚する際には、財産分与でトラブルが起こることが多々あります。
本コラムでは、パワーカップルが離婚するときの財産分与の注意点について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。
1、「パワーカップル」とは?
最近では、「パワーカップル」という言葉がよく取り上げられます。
パワーカップルとは、簡単に言えば、「世帯収入の高い夫婦」のことです。
明確な定義がされている単語ではありませんが、一般的には、以下の三つの条件のうちいずれかを満たす夫婦がパワーカップルと呼ばれているようです。
- ① 世帯年収が1000万円以上
- ② 夫婦ともに年収700万円以上
- ③ 夫の年収が600万円以上、妻の年収が400万円以上
このほかにも、世帯年収の基準を2000万円以上とする場合や、夫婦ともに正社員であるカップルを指してパワーカップルと呼ばれる場合があります。
なお、厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」によると、年収2000万以上の世帯は全体のわずか1.3%、1500~2000万円未満は2.0%、1200~1500万円未満は3.6%となっています。
「パワーカップル」という単語は、男女ともに年収の差が広がった格差社会の時勢を受けて誕生した言葉と言えるでしょう。
2、パワーカップルが築いた財産を分与する方法
夫婦が離婚する際には、「財産分与」について取り決めをする必要があります。
結婚は二人の共同生活であるため、結婚期間中に夫婦が共同して築き上げた財産は。原則として「共有財産」とみなされます。そして、離婚の際には、共有財産を二人で分け合うことになるのです。
以下では、分与の対象となる財産の種類や、分与における注意点について解説します。
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(1)分与の対象となる財産
原則として、婚姻期間中に夫婦が築いた財産はすべて「共有財産」にあたります。離婚の際には共有財産を分け合うことになり、そのための手続きを「財産分与」と呼ぶのです。
分与においては、対象となる財産の名義が夫婦のどちらになっているかは、関係ありません。原則として、夫名義であろうと、妻名義であろうと、婚姻中に築いた財産はすべて共有財産として取り扱われるのです。
具体的には、下記のような財産が、分与の対象となります。- 銀行預金、貯金
- 有価証券(株式や社債・国債など)、投資信託
- リゾートやゴルフの会員権
- 不動産(居住用・投資用含む)
- 自動車
- 現金
- 動産(家財道具・家電・美術品など)
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(2)退職金
退職金が財産分与の対象になるかどうかは、退職金の受け取り時期に大きく左右されます。
離婚の時点で退職済みであり、既に退職金が口座に入金されている場合には、その総額のうち、「婚姻中に勤務していた期間に相当する部分」が財産分与の対象となり得ます。
離婚の時点でまだ退職しておらず、退職金が支払われていない場合は、退職金を受け取る見込みの時期によって扱いが異なります。
例えば、2~3年後のような近い将来に退職金を受け取ることがほぼ確実な場合は、財産分与の対象として考慮される可能性が高くなります。この場合は、将来受け取る退職金の「見込み額」を、財産分与の額に加算することもあります。
なお、一般的には退職金総額×(婚姻期間/退職金基準期間)÷2で将来受け取る退職金を計算することが多いようです。
また、「実際に退職金を受け取った後に、相手に財産分与相当額を支払う」と取り決めておく、という方法も可能です。
また、離婚の時点で退職が決まっておらず、退職金の受け取り時期や金額もはっきりしない場合には、財産分与で退職金のことは考慮しない、という取り扱いも考えられます。 -
(3)年金
年金については財産分与の対象ではなく、年金分割という別の制度になります。
年金を分与する際には、「離婚時年金分割制度」を利用することになります。
ただし、この制度の対象となるのは、厚生年金や共済年金など、基礎年金(国民年金)の「2階建て部分」に加入していた場合に限られます。
年金分割には、合意分割と3号分割の2種類があり、合意分割が合意によって年金を分割する制度、3号分割が平成20年4月以降の年金について離婚した場合に当事者の合意や裁判所の判断なしに年金事務所への届け出によって分割する制度です。
自営業や個人事業主であり、国民年金だけに加入していた場合には、その年金は分割制度の対象にはなりません。
なお、年金分割制度は現金を受け取る制度ではなく、婚姻中の保険料納付記録を修正する制度で、将来の年金額が変化する制度です。 -
(4)借金・ローン
プラスの財産がまったくなく、借金のみが残っている場合、財産分与の対象となると考える説とならないと考える説が分かれています。
原則としては、日常家事債務という結婚生活で日常的に発生する種類の借金を除き、夫婦の片方が負った借金・ローンについて他方が責任を負うことはありません。
ただし、借金・ローンが夫婦の共同生活から発生したものである場合には、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた額を財産分与の対象となることが一般的です。 -
(5)結婚前の預金の扱いは?
パワーカップルの場合には、「それぞれが結婚する前から仕事を持っており、ある程度の貯蓄や資産があった」というケースも一般的でしょう。
基本的に、結婚前に自分が努力して一人で稼いだお金は、共有財産ではなく「特有財産」にあたります。
原則として、特有財産は、財産分与の対象にはなりません。
特有財産の具体例は、下記の通りになります。- 結婚前から持っていた預貯金
- 結婚前に自分の資金で購入した不動産、家財、貴重品
- 結婚後に親や親族から相続で受け取った財産
- 別居して、夫婦共同生活を解消した後に自分で築いた財産
ただし、結婚前に築いた特有財産と共有財産の区別が難しい場合もありますので、財産分与の際には注意が必要です。
また、もともと特有財産にあたる財産でも、婚姻後の夫婦の協力によって財産の価値が増加した場合などは、財産分与の対象となる可能性があります。具体的には、「経営努力によって価値が高められた、自社株の株式のうち夫婦の協力によって価値が維持または上昇した部分」などです。 -
(6)子ども名義の財産の扱いは?
夫婦間に子どもがいる場合、子ども名義で預金をしている方もおられるでしょう。
この場合、預金の出どころが「結婚してから夫婦で稼いだお金」であるなら、夫婦の共有財産にあたります。したがって、たとえ子ども名義であっても(子ども自身が稼いだとか、親せきからのお年玉などでためたものでない限り)離婚時の財産分与の対象となるのです。
とはいえ、「子ども名義の財産は、そのまま子どものために残しておきたい」と考えられる人もいるでしょう。特にパワーカップルの場合には、両親が高い学歴を有しているために、「子どもにも高い教育を受けさせたい」と考えて、子ども名義で高額の預金をしているケースも多々あります。
財産分与の詳細については、夫婦間で号して、その内容を取り決めすることができます。したがって、「子ども名義の資産は、財産分与として扱わない」という取り決めをすることも可能です。
3、財産分与の手続きの進め方
以下では、財産分与の手続きの進め方を、具体的に解説します。
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(1)お互いの財産を明らかにする
まずは、お互いがどのような財産を持っているか、洗い出ししましょう。
銀行預金、有価証券、現金など、あらゆる資産の残高について、つまびらかにする必要があります。
なお、配偶者の収入が高い場合は、こちらの知らない間に資産をためこんでいる可能性もあります。そうした資産も含めてすべて財産分与の対象となる可能性がありますから、相手に全財産を開示してもらうことが大切です。 -
(2)不動産などの評価額を出す
分与の対象となる財産に、不動産やリゾート会員権、骨とう品やアート作品などが含まれる場合は、その評価をどうするかが問題となります。
例えば、固定資産税で評価する、売却相場で評価する、鑑定を依頼する、など、資産の種類によって、評価額の定め方はさまざまに考えられます。
なお、「どの評価額を採用するか」は、夫婦間で話し合いして決めることが可能です。 -
(3)特有財産を特定する
パワーカップルの場合には、独身時代に形成していた特有財産をめぐって争いになることがよくあります。
自分の特有財産についても、相手が分与を求めてきた場合は、分与を拒否することになります。その場合に備えて、財産の形成過程など、自分の特有財産であることを立証できるように準備をしておくことをおすすめします。 -
(4)分与割合を決める
財産分与の対象がはっきりしたら、分与の割合についても、決める必要があります。
原則として、共有財産を分ける基準は1対1とされています。つまり、共有財産を5割ずつ、夫婦で分けることになるのです。婚姻期間中は、夫婦がお互いに支え合って財産を共に形成してきたと評価されるためです。
なお、現代の日本では収入の男女格差が激しいという実情があります。つまり、男性の収入の方が女性に比べて高いというケースが多いのです。そして、夫が莫大(ばくだい)な収入を得ている一方で、妻の収入が極端に低い場合には、財産分与割合について夫から異議が出る場合があります。「稼ぎの少ない妻に、5割も渡せない」という主張です。
このような場合でも、妻が家庭を支えていたからこそ、夫が働いて稼ぐことができたといえるわけですから、夫の言い分が必ずしも通るわけではありません。
夫婦の形がいろいろであるように、財産分与もケース・バイ・ケースです。ご自身の事情に沿った主張を組み立てることが重要になります。
4、財産分与でもめそうなら弁護士に相談を
ともに財産が少ない夫婦の場合には、財産分与でトラブルが生じる可能性はさほど高くありません。しかし、パワーカップルの場合には収入も資産も多いために、離婚の際に財産分与でもめてしまう可能性が高いのです。
以下のような場合には、早い段階から弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)特有財産があるとき
パワーカップルは、結婚前に夫婦それぞれがある程度の資産を持っていることが多いものです。また、結婚してからもそれぞれが仕事を続けており、どこまでが特有財産で、どこからが共有財産なのか、はっきりしないケースも多々あります。このため、特有財産をめぐって争いが起きやすいのです。
弁護士に依頼すれば、特有財産の主張に必要な資料や立証のポイントをおさえて、有利に交渉を進めることができます。 -
(2)相手の資産状況がわからないとき
財産分与をするときには、「相手の資産状況を明らかにすること」が最初のステップとなります。
しかし、パワーカップルで共働きのケースでは、お互いが自立しているため、相手の財布の状態を知らずに生活している人の割合も高いものです。したがって、相手の資産状況が把握できず、適切な財産分与手続きが進められないというおそれがあるのです。
弁護士に相談すれば、相手の資産状況を把握するためのアドバイスが得られます。 -
(3)交渉する時間やストレスをかけたくない
パワーカップルの当事者はお互いに忙しく、交渉にあてる時間がないこともよくあります。また、そもそも離婚に関する交渉自体がかなりのストレスを伴うものであるのに、さらに財産で争うとなると、仕事や日常生活に支障が出てしまうおそれがあるでしょう。
弁護士に財産分与の交渉を代行させることで、交渉の手間やストレスから脱することができます。 -
(4)自分に不利な交渉は避けたい
財産分与の話し合いは、夫婦それぞれの利害が真っ向から対立しますので、難航することも多いものです。財産分与の交渉はご自分で行うことも可能ですが、有利な条件で離婚を成立させるためには、専門的な知識と交渉力が不可欠です。
自分で話を進めた結果、思わぬ不利な条件で合意してしまうことを避けるために、早い段階から弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
本コラムでは、パワーカップルが離婚する場合の財産分与のポイントについて、まとめてお伝えしました。
離婚の際にはいろいろなトラブルがつきものですが、財産分与でもめてしまうと、手続きが長引いてしまい、精神的にもつらくなる可能性があります。
また、特にパワーカップルでは、財産分与はトラブルの原因になりやすいものです。
弁護士に早めに相談することで、トラブルを回避できる可能性が高くなります。
ベリーベスト法律事務所では、財産分与はもちろん、離婚・男女問題にかかわるあらゆるご相談に応じています。
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