警察からポリグラフ検査を求められたら断っても良いの?
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神奈川県警察が公表している犯罪統計資料によると、令和5年に藤沢市で認知された全犯罪件数は2101件でした。横浜市、川崎市、相模原市に次いで、4番目に多い数字となっており、日々多数の犯罪が発生していることがわかります。
何か身に覚えがある時に、突然警察から呼び出されると心配になるでしょう。警察の捜査では、たとえばポリグラフ検査などの科学的な検査を受けるよう要求されることもあります。そのようなとき、警察からの呼び出しやポリグラフ検査の求めを断ってもよいのでしょうか。仮に断った場合は、いったいどうなるのでしょうか。
本記事ではポリグラフ検査の詳細と、警察から呼び出しを受けた際の対応方法について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、ポリグラフ検査とは
ポリグラフ検査とは、警察の捜査で使われる記憶検査の一種で、科学捜査研究所の心理科で行われる検査です。
科学捜査研究所とは、警察庁の附属機関として、科学捜査についての研究・実験およびこれらを応用する鑑定・検査などを行っています。
ポリグラフ鑑定嘱託要領によれば、警察署長から科学捜査研究所に対して、ポリグラフ検査の鑑定嘱託を行うことが定められています。
検査担当者は、検査対象者がたとえば事件の詳細を知っているかについて、対象者の血圧・脈拍・皮膚電気反射などの生理反応から鑑定していきます。
検査対象者の生理反応の変化を基に、犯人しか知り得ない事件に関する記憶を検査対象者が持っているか判定する法科学的鑑定法なのです。
ポリグラフ検査は、うそ発見器とも呼ばれますので、その名前で聞いたことがある方も多いでしょう。
2、ポリグラフ検査ではどのようなことがわかる?
ポリグラフ検査には主に2つの検査方法があります。それぞれについて詳しく見ていきます。
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(1)緊張最高点質問法
この検査法は犯人しか知りえない事実に関する質問を他の質問と組み合わせて質問する方法です。
犯人であれば、「犯人しか知り得ない事実についてうそをついた際に緊張が高まるだろう」、つまり、「特定の生理反応が出るだろう」という仮説に基づいています。
具体的な方法としては、犯行日時や凶器、犯行の手段など、犯人しか知りえない情報を質問に盛り込みます。
検査対象者は、いずれの質問に対しても「いいえ」とだけ答えるように指示されます。犯人しか知りえない情報について、事実と異なる回答をしたときにもっとも生理反応が高くなった場合には、検査対象者が犯人であるとの疑いが高まることになります。
たとえば、殺人事件の被疑者について、殺人の方法がジャックナイフを使った犯行だったとします。
このときに、質問者が以下のような質問をします。- ① 犯行に使ったのは包丁ですか
- ② 犯行に使ったのは果物ナイフですか
- ③ 犯行に使ったのはジャックナイフですか
- ④ 犯行に使ったのはのこぎりですか
検査対象者は、どの質問にも「いいえ」と答えます。
このとき、犯人ならば、凶器がジャックナイフだと知っています。そして、いいえと答えることはうそになります。
したがって、検査対象者が犯人だった場合には、③について答えた際に、もっとも高い反応が出ることが予想されます。 -
(2)対照質問法
この検査法は、事件に関係する質問と関係しない質問を組み合わせて質問する方法です。
関係ある質問についての反応と、関係ない質問への反応とを比較するために2つの質問をセットで行います。
検査対象者が犯人だった場合に、事件に関係する質問に対して答える際の生理反応のほうが大きくなると予想されます。
たとえば、放火犯の被疑者に対してこのような質問をします。- ① あなたは放火犯ですか
- ② あなたの奥さんは放火犯ですか
この場合、②よりも①に対する反応が大きければ検査対象者は犯人として疑わしいということになります。
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3、警察はどのようなときにポリグラフ検査を求めるのか?
ポリグラフ検査は、警察の犯罪捜査に利用されることがあります。
特に、被疑者(犯人と疑われている人)が事件や事故に関して否認や黙秘をしている場合や、客観的な証拠や犯罪を立証するための決め手がない場合に利用されることがほとんどです。
また、被疑者が複数人いる場合に候補を絞るために利用されることもあります。
もし、鮮明な防犯カメラ映像が残っているなどの客観的かつ確実性が高い証拠があれば、あえてポリグラフ検査を行う必要性はありません。
逆にいえば、ポリグラフ検査の要請がなされた場合は、警察側が犯人についての客観的かつ明確な証拠を握っていない可能性が高いといえます。
4、ポリグラフ検査は証拠になるの?
結論として、ポリグラフ検査の結果は一定の条件を満たせば刑事裁判における証拠資料となりえます。
ただし、その検査結果の信ぴょう性に関しては慎重に判断されなければならないとされています。
つまり、ポリグラフ検査の結果で検査対象者が犯人だという結果が出たとしても、それを全面的に信じて判決を下すのは危険だと考えられているのです。
なぜなら、血圧や心拍数といった人間の生理反応は、検査対象者が事件に関係していなかったとしても、別の事情から影響を受けて反応が出てしまうこともあるからです。
たとえば、警察に呼び出されたことや、うそ発見器にかけられていること自体が大きなストレスになります。
そうした強いストレスが検査の際に緊張として反応にあらわれ、実際には事件とは関係ないのに、まるで犯人であるかのような反応が出てしまう可能性も否定しきれません。
また、検査実施者の技術や経験によっても結果が大きく変わりうることも知られています。
質問を行うのは機械ではなく人間なので、質問者の態度によって検査対象者の反応が変わってくるのも当然といえば当然です。
したがって、たまたまその検査によって疑わしい結果が出たとしても、それは別の要因が影響した可能性が否定できないのです。
そのため、現在の日本の刑事裁判では、ポリグラフの検査の結果だけを根拠として有罪判決を下すことはできないとされています。
なお、ポリグラフ検査については、科学警察研究所の情報科学第一研究室において現在も研究が続けられており、検査技法などに改良が重ねられています。最新の生理反応計測技術が組み込まれたものでは、20チャネル以上の生理反応データの計測と解析が可能であるとされています。
5、ポリグラフ検査を断ることは可能?
警察からポリグラフ検査を受けるように求められた場合でも、従う義務はありません。
そもそもポリグラフ検査は任意の捜査であり、検査には必ず相手の同意を得なければならないとされているからです。
警察が無理やりポリグラフ検査にかけることは許されないのです。
ポリグラフ検査は、誰がどんな状態で受けても気持ちの良いものではないでしょうし、とても緊張するものです。
万が一、その緊張がもとになっておかしな検査結果が出てしまったら不安になるでしょう。
ポリグラフ検査を求められた場合は、原則として断るべきでしょう。
なお、検査を断ると余計に疑われるのではないかと心配になるかもしれませんが、ポリグラフ検査を断ったからといってそれだけで犯人であると判断されてしまうことはありません。
警察としては、疑いを持っているならしっかりと自分たちで捜査を行い、客観的な証拠や情報を積み上げるべきです。検査を受けたくなければ、はっきり断ってかまいません。
6、警察から「呼び出し」を受けたらどうすべき?
では、実際に警察から呼び出しを受けた場合にはどのように対応すべきなのでしょうか。
警察から呼び出しを受けるということは、証拠の有無はともかく、何らかの事件について事情を知っていると思われていることは間違いないでしょう。
そこで、警察からの呼び出しを理由なく断り続けると、逮捕されてしまう可能性もあります。
そのような事態になることを想定すると、呼び出しにはある程度素直に応じたほうが安全です。
呼び出されたからといって、すぐに逮捕されるというわけではありません。
何らかの容疑をかけられていながらすぐに逮捕をされていないということは、警察側が客観的な証拠をつかめていないということも考えられます。
ただし、ときには逮捕をする前提で呼び出される場合もあります。
たとえば、警察が直接被疑者の自宅などを訪問した場合に被疑者が暴れたり、逃亡することが想定されるような場合です。
呼び出しを受けた段階でどう対応すべきかは、疑いをかけられている事件の性質や被疑者の生活状況によっても違ってきます。
その違いを判断し、自分で適切に対応することは困難です。
したがって、警察から呼び出しを受けた場合には、まず弁護士に相談することが望ましいでしょう。
そもそも呼び出しに応じるべきか、応じるとして警察からの質問にどのように答えるべきかなど、確認しておくことはたくさんあります。事前に弁護士に相談しておくことで、少しでも余裕をもって応答することができるでしょう。
7、まとめ
本記事では、ポリグラフ検査の概要や、警察から突然呼び出しを受けた場合の流れについて解説しました。呼び出しを受けた場合はできるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。まったく身に覚えがない場合はもちろん、自分が罪を犯したと自覚している場合でも、速やかに弁護士に相談することが重要です。なぜなら、警察に呼び出されてそのまま逮捕されてしまった場合に備えて、事前に対応方法を確認しておくことができるからです。
また、事前に弁護士に相談しておくと、万が一逮捕された場合でも、速やかにコンタクトをとることができます。いったん逮捕されてしまうと、警察署に留置された状態で信頼できる弁護士を探すことが難しくなってしまいます。警察からの呼び出しがあった段階で先に弁護士に相談し、その後も継続的なサポートを得る体制を整えておくことが望ましいのです。
当事務所では、刑事事件はもちろん、捜査の初期段階における被疑者の対応についても経験豊富な弁護士が多数在籍しています。ご相談者さまの気持ちに寄り添いながらお話をうかがいますので、お困りの場合はベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士まで相談ください。
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