退職金を請求できる・できないケースの違いは? 基本知識と対策を解説

2020年06月12日
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退職金を請求できる・できないケースの違いは? 基本知識と対策を解説

神奈川県が公表する「平成30 年度神奈川県労働相談の概況」によると、平成30年度に受けた相談のうち、退職金についての相談が155件ありました。湘南藤沢エリアにお住まいの方でも、退職金について悩まれている方もいるのではないでしょうか。

会社でのトラブルで退職してしまった場合、退職金の支払いや金額に不満があっても確認することがはばかられるかもしれません。「トラブルで退職してしまったから」と相談に二の足を踏んでしまう方もいらっしゃるでしょう。

トラブルが原因となって退職した場合でも、退職金を受け取ることができる場合があります。会社に退職金規定がある場合には、会社はそれに従う必要があるので、自分に非があったとしてもすぐに諦めないほうがいいでしょう。

本コラムでは、トラブルにより退職した場合における退職金の支給の可否や、その請求方法について、湘南藤沢オフィスの弁護士が退職金の基本的知識とともに解説します。

1、退職金を請求するために制度の有無を確認すべき理由

  1. (1)退職金制度は法律で定められたものではない

    日本では、退職金制度がある会社が多かったため、「退職金はもらって当然」と考えている方がいるかもしれません。しかし、退職金制度は法律で定められた制度ではないのです。

    会社(労働関係の法律では「使用者」と呼ばれます)は、労働者を雇用する際において、必ずしも退職金制度を作らなければいけないわけではありません。退職金制度を作らず、退職金を支払っていないこと自体は違法ではないのです。

    そのため、まずは、ご自身が勤めている会社に退職金制度があるかを調べる必要があります。

  2. (2)制度の有無を確認する方法

    退職金制度の有無を確認する上で、まず最初に検討すべきは就業規則です。

    できれば就業規則は在職中にチェックをしておきましょう。就業規則が手元にない場合、退職した後に確認することは大変ですし、特にトラブルで退職した後の確認は困難を伴う可能性があります。

    就業規則に退職金の支払いについて記載があれば、退職金制度があると判断できます。さらに、就業規則の中で退職金の支払い方法、支払い基準などが明記されていることもあるでしょう。就業規則において退職金を支払うことが明記されている場合には賃金と同様の取り扱いをしなければならないとされているため、会社側に退職金の支給義務が発生します。会社が退職金の支給義務を負っているにもかかわらず、労働者が退職した後も退職金を支払わない場合、労働者は会社に対して退職後であっても退職金の請求をすることができます。

    なお、会社には、退職金の詳細について労働契約を結ぶ際に明示する義務があります(労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条第1項第4号の2)。そのため、入社の段階でそもそも退職金制度があるのか、ご自身が退職金の受給対象者となるか、会社から説明を受けていることがほとんどでしょう。

  3. (3)退職金がない、もしくは確定拠出年金を整備している会社も

    退職金制度が法律で義務化されていない以上、制度自体がそもそも存在せず、退職金を支払う慣習もないという会社もあります。そのようなときは、残念ながら退職金を請求することができません。ご自身の会社はどうなのか、まずは就業規則や雇用契約書などの書類を確認しましょう。

    最近では、退職金制度に代わる老後資金の準備手段として、確定拠出年金制度を整備する企業も増えているようです。あなたが在籍していた企業がこの制度を採用しているときも、「懲戒解雇だから」という理由でこれまで積み立てた確定拠出年金の返還を求められるケースが考えられます。

    しかし、確定拠出年金法第3条3項10号では、企業型年金について会社側が掛金の返還を受けることができるのは、勤続年数が3年未満の労働者に限るとされています。したがって、労働者が勤続3年以上である場合には、たとえ懲戒解雇であってもこれまでの掛け金を会社側に返還する必要がないということになります。
    これは、確定拠出年金という制度が、出資者が企業であっても個人の持ち分として運用される年金制度だからです。

  4. (4)中小企業退職金共済に加入している場合

    退職した会社が中小企業であった場合、自社だけでは退職金の準備が難しいこともあります。その場合に備えて、国が用意している制度が中小企業退職金共済(略して中退共)です。

    これは、労働者の退職金を会社が積み立てておき、支払いが発生した場合は中退共が直接労働者に退職金を支払うという制度です。中退共のホームページで、在職していた会社がこの制度に加入しているかどうかを確認することができます。中小企業にお勤めだった方は、チェックしてみてはいかがでしょうか。ただし、掲載は任意ですので、会社が中退共制度に加入していても掲載がない場合があります。

2、トラブルが原因の退職でも退職金はもらえるの?

  1. (1)退職金がなくなるとは限らない

    前述のとおり、トラブルが原因の退職や解雇だからといって、退職金を受け取れないとは限りません。

    就業規則に退職金規定がある場合、会社には原則として退職金を支払う義務があります。したがって、たとえば懲戒解雇となったとしても、処分を原因とした退職金の減額や不支給に関する規定が設けられていなければ、基本的には退職金を受け取ることができます。まずは、就業規則を詳しくチェックしてみる必要があります。

    仮に、減額や不支給について記載があったとしても、使用者が好き勝手に退職金の額を決定することができるわけではありません。たとえば、退職前に減額や支払い拒否の規定がなく、退職後に就業規則が改訂されて減額や支払い拒否の規定が追加されていることがあります。その場合、あくまでも退職時点での就業規則が適用されることになるのです。
    また、仮に懲戒解雇の場合には退職金を一切支払わないとの規定が就業規則に存在したとしても、これまでの労働者の会社に対する貢献の度合いによって、退職金の一部の支払いを受けることができる場合もあります。
    したがって、就業規則の記載をみてすぐに諦めるのは早いということになります。

  2. (2)会社が中退共に加入している場合

    中退共に会社が加入している場合でも、トラブルが原因で退職した場合は退職金を減額されてしまう場合があります。

    たとえば懲戒解雇の場合、事業主は中退共に「懲戒解雇のために退職金を減額したい」という連絡を入れます。そして、懲戒解雇をした理由などを添えて厚生労働大臣の認定を受ける手続きを行うことになります。

    この手続きは、労働者の退職日の翌日から20日以内に行われる必要があり、さらに減額されたとしても、積立金の差額は事業主には戻りません。もし会社から「退職金を減額する」と言われてしまったとしても、こうした手続きがなければ簡単に減額はできないことを知っておきましょう。もしかしたら、会社が手続きを取らなかったために退職金を減全額受け取ることができるかもしれません。

3、退職後に退職金を請求したいときはどうしたらいい?

  1. (1)まずは証拠集めを

    会社に退職金規定があり、退職金を請求できそうな場合、まずは退職金を請求する根拠となる証拠を集めましょう。退職金規定が記載されている就業規則や労働協約、取り交わした労働契約書、退職金支給の条件に勤続期間がある場合には、給与明細などがこれに当たります。また、会社の就業規則には退職金規定が存在しなかったとしても、会社が退職金を支払ってきた慣行があれば退職金の支払いを請求する根拠となります。その場合には、退職金を受け取った元同僚の証言も証拠のひとつになるでしょう。

  2. (2)書面を作り、配達証明付き内容証明郵便を会社へ送る

    会社に送る書面には、主に以下の内容を記載します。

    • 会社に対して、退職金を請求すること
    • 会社が退職金を支払う義務を負っていることと、その根拠
    • 金額や支払期日
    • 支払われなかったときには、法的手段に出ることも検討していること

    また、会社に「受け取っていない」などと言い逃れをされないためにも、普通郵便ではなく、書面の内容、送った日時、受け取った日時を記録に残すことができる配達証明付きの内容証明郵便で送付しましょう。

    なお、内容証明郵便には細かいルールがあります。郵便局のホームページ等でよく確認したうえで作成するか、弁護士などに依頼することをおすすめします。

  3. (3)ADR機関を利用する

    会社と直接交渉するのが難しい場合は、第三者に入ってもらった上で解決を目指すのも選択肢のひとつです。
    具体的には、ADRという手段が考えられます。ADRとは、裁判まではしたくないが、相手との直接交渉では解決が難しい場合、専門家を介して交渉を進めるという裁判外手続きのことです。日本弁護士連合会、社会保険労務士会、行政機関、民間業者などさまざまな専門家がADRを行っています。各団体のホームページで詳細を確認し、検討しましょう。
    ここでは、ADRのひとつである紛争調整委員会についてご紹介します。
    紛争調整委員会は労働局に設置されている機関のひとつで、指名された委員が紛争の解決のために話し合いを促します。この制度を利用する場合は、都道府県に設置されている総合労働相談コーナーに申し込みましょう。

4、退職金の請求をしたいときは早めに弁護士へご相談を

トラブルによる退職の場合、退職金の請求をするのが精神的につらいこともあるでしょう。

しかし、退職金の請求権は、5年で時効により消滅してしまいます。すでに退職から年月がたってしまっている場合は、できるだけ早期に解決に向けて動きはじめましょう。書類の作成などの準備には大変な手間がかかることがあります。弁護士に依頼することによって、あなたは通常通りの生活を送りながら退職金の請求をすることができます。まずは、気軽にご相談ください。

5、まとめ

会社とのトラブルが原因となって退職した場合、「就業規則をきちんと確認できなかった」とか「最初からもらえないと諦めて確認しなかった」などの理由から、退職金を受け取らずに済ませてしまうことがあるでしょう。

自分で請求をしてスムーズに支払ってもらえればそれがベストですが、前の勤め先に退職金の連絡をすることをためらわれる方も多いのではないでしょうか。こうした場合、弁護士へ相談することもひとつの方法です。

退職金の請求についてお困りの方は、ベリーベスト法律事務所・湘南藤沢オフィスまでお気軽にご連絡ください。湘南藤沢オフィスの弁護士が力を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています