子ども(中学生、高校生)が体罰を受けた。学校に対してどのような対応がとれる?
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文部化科学省による体罰に関する調査によると、平成24年度における体罰の発生件数は全
国で6721件となっています。日本では、体罰はしつけの一環などとされ、体罰を容認する
傾向が強い側面がありました。
しかし、先生から体罰を受けたことを理由に生徒が自殺した事件が注目を集めたり、体罰
も暴力であるという見方が強まったりしたことから一昔前と比べると体罰への見方は随分
と変わりました。
とはいえ、文部科学省の調査のとおり、いまだに体罰を受けている児童が多数いることが
わかります。体罰は、児童生徒の心に大きな傷を与え、成長にも影響を与える可能性があ
ります。
では、具体的に体罰とは何を指すのか、もし、体罰を自分の子どもが受けた場合、誰にど
のような責任が問えるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁
護士が詳しく解説します。
1、どこからが体罰にあたるのか?
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(1)体罰にあたる具体的な行為の例
現在の日本では、体罰は、学校教育法によって明確に禁止されています。
文部科学省の「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例」 では、体罰と判断される行為について、具体的な事例を挙げて紹介されています。
大まかに、①身体に対する侵害を及ぼすものと、②肉体的苦痛を与えるものという2つの分類に分けられています。
①は、一般的に暴力と呼ばれるような状況であり、児童生徒の身体への加害行為ともいえます。②は、直接暴力をふるう以外の方法で、児童生徒に苦痛を与えるような行為です。
①身体に対する侵害を及ぼすものの具体例- 体育の授業中、危険な行為をした児童の背中を足で踏みつける。
- 帰りの会で足をぶらぶらさせて座り、前の席の児童に足を当てた児童を、突き飛ばして転倒させる。
- 授業態度について指導したが反抗的な言動をした複数の生徒らの頬を平手打ちする。
- 立ち歩きの多い生徒を叱ったが聞かず、席につかないため、頬をつねって席につかせる。
- 生徒指導に応じず、下校しようとしている生徒の腕を引いたところ、生徒が腕を振り払ったため、当該生徒の頭を平手で叩(たた)く。
- 給食の時間、ふざけていた生徒に対し、口頭で注意したが聞かなかったため、持っていたボールペンを投げつけ、生徒に当てる。
- 部活動顧問の指示に従わず、ユニホームの片づけが不十分であったため、当該生徒の頬を殴打する。
②肉体的苦痛を与えるようなものの具体例
- 放課後に児童を教室に残留させ、児童がトイレに行きたいと訴えたが、一切、室外に出ることを許さない。
- 別室指導のため、給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め置き、一切室外に出ることを許さない。
- 宿題を忘れた児童に対して、教室の後方で正座で授業を受けるよう言い、児童が苦痛を訴えたが、そのままの姿勢を保持させた。
(参照:文部科学省「学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例」)
上で挙げられている事例は、いずれも子どもの身体肉体はもちろん、精神的に苦痛を与えることが容易に推測されます。 -
(2)体罰にあたらない場合とは
他方、教師は児童生徒を適切に指導すべき立場でもあります。
したがって、教育に必要な限度で「やむを得ない」場合には、身体的な接触なども認められています。つまり、体罰にあたるかどうかの線引きは明確ではないのです。
この判断は、実際の状況によっても異なってきます。たとえば、教室で興奮して暴れている生徒の肩を教師が両手で押さえた場合は、「やむを得ない場合」として体罰ではないとされる可能性が高いでしょう。
他方、同じ状況で、教師が生徒の頬をつねりながら外に連れ出して顔を殴ったという場合は、「やむを得ない」とまでは言えず、体罰に該当する可能性が高いといえます。
2、体罰で問うことのできる責任とは?
体罰を受けた場合、相手に対してどんな責任を追及できるのでしょうか。おおまかに3つのルートがあります。
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(1)体罰をした教師に対する処分
体罰は、学校教育法11条によって禁止されています。したがって、体罰を行うということは、学校教育法11条に違反する行為です。
体罰を行った教師については、公立学校の教師については地方公務員法に基づき処分がなされ、国立大学法人立の学校の教師(一般には国立大学の附属といわれている学校を指します)、私立学校の教師については、各々が定める就業規則に基づき処分がなされます。- ①一度だけ体罰を行った場合・・・戒告処分(口頭注意)
- ②常習的に体罰を行っていたり、故意に体罰を隠そうとした場合・・・停職または減給
- ③体罰により生徒が死亡したり、後遺症をもたらした場合・・・免職
公立学校の場合、地方公務員法32条で職員は法令に従う義務が定められていますから、体罰禁止という職務上の義務に反する行為については、懲戒処分として上記の処分が下されます(地方公務員法29条11項)。
また、私立学校や国立大学法人立の学校であっても、学校教育法はその適用対象を公立学校に限っていないことから、体罰禁止という学校教育法の規定は私立学校や国立大学法人立の学校にも適用されますから、教師が生徒に対して体罰を加えた場合には、就業規則に従い、戒告、停職・減給、解雇など同等の処分が下されることになります。 -
(2)損害賠償請求
子どもが体罰を受けると、怪我をして治療が必要となる場合もあります。その治療費を、怪我をさせた教師や学校に払ってほしいと思う保護者は多いものです。また、体罰で子どもが傷ついているとき、慰謝料を払ってほしいという気持ちが芽生える可能性があります。そんな場合は、損害賠償請求の方法を検討することになります。
体罰が起きたのが、公立学校の場合は体罰を行った教師個人を訴えることはできません。公務員が業務において起こした問題は、その所属先である各都道府県や市町村が責任を負うものと定められているからです(国家賠償法1条)。したがって、教師個人ではなく、学校を運営する公共機関、たとえば、市立中学校であれば市を、県立高校であれば県を、損害賠償請求を行います。
国立大学法人立の学校の場合には、国家公務員法上の公務員には該当しないものの、国立大学が国立大学法人法に基づく法人であること、国からの財源をもって運営していることからすると、国家賠償法の対象となる公共団体の公務員に該当することから、この場合には国立大学法人を相手として損害賠償請求をすることとなります(国家賠償法1条)。
なお、私立学校の場合は、教師個人の責任を問うことができます(民法709条)。この場合、教師個人の責任と学校の管理責任を合わせて問題とするケースが一般的です(民法715条1項)。 -
(3)警察への告訴
体罰の中には、完全な暴力として暴行罪、傷害罪などの犯罪行為に該当するようなものも含まれます。そのような場合、教師が学校から処分を受けただけでは、気が済まないということもあるでしょう。そんなときは、教師を警察に告訴するという方法があります。
警察は、学校や家庭でのトラブルには乗り気ではないことが一般的です。しかし、悪質な場合は、警察に相談して被害届の提出や告訴などの手段も検討しましょう。告訴が受理されると警察が動き出し、取り調べなどが行われます。その結果、逮捕から刑事裁判へ進む可能性もあります。
3、学校の体罰に対して相談できるところ
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(1)まずは学校と教育委員会
生徒が体罰を受けていた場合、まずは、学校と教育委員会に体罰の調査を請求しましょう。実際に、現場で何があったのか、できるだけ早い段階で実態を明らかにすることが重要だからです。
この際のポイントは、体罰を行った教師や学校を責め立てるような内容ではなく、あくまで調査してほしい、実態を知りたいという構えで伝えましょう。保護者側から学校を一方的に責める様子が見られると、学校側が体罰の証拠を隠蔽(いんぺい)したりする恐れがあるためです。
調査の要求は内容証明郵便という文章で送るのが有効です。内容証明郵便とは、日時、送り主、文章の内容、宛先を日本郵便が証明してくれる特別な郵便です。こちらが調査の要求をした客観的な証拠を残すことができるからです。 -
(2)証拠を集める
そして、調査の依頼する際の注意点として、事前にこちら側で集められる証拠は集めましょう。他の生徒の証言や、体罰時の録音、怪我をした場合の治療の診断書や領収書などは必ず手元にまとめておきましょう。
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(3)そのほかの相談機関
学校への調査依頼と同時に、第三者が行っている窓口にも相談しておきましょう。客観的な意見や、いますべきことを冷静に教えてもられる可能性があるからです。
たとえば24時間子どもSOSダイヤルや、子どもの人権110番などがあります。24時間子どもSOSダイヤルは全都道府県および指定都市教育委員会が設けており、児童相談所などさまざまな機関と連携してアドバイスをしてくれます。子どもの人権110番は、法務省が設けており子どもの体罰はもちろん人権などに関する幅広い相談が可能です。
4、弁護士ができること
弁護士も相談先としておすすめします。弁護士に相談すれば、学校に何を求めればいいのか、何から始めればいいのか説明を受けることができます。必要な証拠の集め方についても有益なアドバイスを受けられます。
そして、教師や学校との直接のやり取りを弁護士に依頼すれば、精神的な負担を軽減できるというのも大きなメリットです。
実際、学校や教育委員会等に相談しても、なかなかこちらの思いが伝わらなかったり、納得のいく回答が得られなかったりする場合も多くあるのが現状です。また、調査を求めても、一向に調査が進まない場合やかえって情報を隠されるといった事態もあり得ます。
このような場合、保護者だけで対応するのは至難の業といえます。そして、体罰が明らかになった場合、教師や学校、教育委員会など複数の関係者のうち、誰にどんな責任を追及するのか、ついても、適切に検討することができます。
5、まとめ
体罰を受けた場合、それがどんな理由であっても、子どもにとっては深い心の傷となります。また、体罰によって、子どもの成長に大切な自尊心や人を信頼する気持ちが損なわれる可能性があります。学校という閉鎖空間では、子どもが周りに助けを求めることが難しく、先生という絶対的な立場の人から攻撃されることで、強い無力感に襲われるかもしれません。このような無力感を味わった経験は長く後を引き、その後の人生に影響を及ぼす可能性も否定できません。
子どもだけでなく、その親にとっても、子どもがケガをしたり、精神的に傷ついたりしている状況は実につらいものです。体罰は、家族全体にあたえる精神的なダメージが大きいのです。とはいえ、体罰に関する相談窓口であるはずの学校や教育委員会は、必ずしも保護者や本人に対して、適切な対応をしてくれるとは限りません。当事者だけでは、被害の実態さえつかめないことも多数あるのです。
弁護士に依頼すれば、法的根拠に基づいて最適な方法で手続きを進めることができます。精神的な負担を少しでも少なくするために、また、時間が経過することで、真実がうやむやになる前に、ぜひ早い段階で弁護士に依頼することをご検討ください。
ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスでは、学校関係トラブル、体罰に関するご相談も多数お受けしています。傷ついたお子さんや苦しい思いをされている保護者の方に寄り添って、丁寧にお話を伺います。いつでもご相談をお待ちしています。
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