いじめ防止対策推進法とは? 子どもがいじめの被害に遭ったとき弁護士ができること
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- いじめ防止対策推進法とは
子どもから「いじめに遭っている」と相談された時、親としては大きなショックを受けるはずです。加害者への怒りの気持ちや、子どもを守りたい気持ちなどでいっぱいになるでしょう。
実際に、学校でのいじめはいまだに多く、仲間外れや、無視、陰口などをされた経験がある小中学生は9割に上るという調査もあります。そうした実態をふまえて制定された法律が「いじめ防止対策推進法」です。
本コラムでは、いじめ防止対策推進法の内容や、加害者や学校に対してどんな対応が可能なのかについて、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。
1、いじめ防止対策推進法とは?
いじめ防止対策推進法とは、子どもたちの間で起きているいじめの問題に対し、社会全体で向き合い、適切に対処していくため基本的な理念や体制を定めた法律です。平成25年6月、文部科学省によって制定され、同年9月に施行されました。
この法律により、全ての学校が、いじめ対策のための「組織」を設置することと、その組織がいじめの防止から発見、発生時の対応に至るまで中心となって取り組むことが規定されています。
また、いじめの中には深刻なケースもあり、時には、子どもの生命・身体に関わる事態も発生します。そうした重大事態が起きた場合には専門家も交えた調査組織を置いて事実関係を調査することも、併せて規定されました。
いじめは、いじめの被害に遭った児童生徒が教育を受ける権利を著しく侵害するものです。また、いじめ行為は、被害者の心身を傷つけ、健全な成長と人格形成に重大な悪影響を与えることが明らかです。
そして、子どもたちの身体に危険を生じさせたり、時には、生命を奪う恐れもある重大な出来事です。いじめを放置することは決して許されず、周囲が責任をもって対応すべきことを明確にするために、いじめ防止対策推進法が機能することが期待されています。
なお、いじめ防止対策推進法により、地方公共団体は、地域の実情に応じていじめ防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するため、基本的な方針(いじめ防止基本方針)を定める努力義務が定められています。
さらに、学校の設置者は、学校におけるいじめ防止等のために必要な措置を講ずる責任があると定められました。
2、いじめの定義とは?
以下では、いじめ防止対策推進法に規定される「いじめ」とはそもそもどのような行為を指すのかについて、定義を解説します。
なお、いじめ防止対策推進法は、あくまで、児童生徒を守るための法律ですので、対象は児童と生徒に限られています。
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(1)いじめ防止対策推進法における「いじめ」とは
いじめ防止対策推進法における「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」と定義されています。
近年では、SNSなど、インターネット上のコミュニケーションアプリを使い、相手を精神的に追い詰め、負担を感じた児童生徒が不登校になったり、中には自殺する事件も発生しています。
こうした事態をふまえ、学校などで直接行われるコミュニケーションだけではなく、インターネット上のやりとりもいじめ行為に該当することを明記したものです。同法19条にもインターネットを使ったいじめに対して学校側に体制を整えることに関する努力義務が規定されています。 -
(2)いじめが起こる場所に限定無し
いじめというと、学校や教室などで行われているイメージがあるかもしれません。
しかし、いじめ防止対策推進法では、いじめが行われる場所を限定せず、学校の外であっても、児童生徒が心身の苦痛を感じるような行為があった場合は、いじめに該当するものとしています。
あくまで、行われた行為の性質や、被害を受けた児童生徒の心理的な苦痛から、いじめにあたるかどうかを判断するのです。 -
(3)児童生徒が他の児童生徒に対して行う場合に限る
いじめ防止対策推進法では、児童生徒が他の児童生徒に対して心理的または物理的な影響を与える行為を対象としています。
したがって、学校の教員から児童生徒に対して、暴力などが行われ、児童生徒がそれによって心理的苦痛を感じたとしても、いじめ防止対策推進法に定義する「いじめ」には該当しません。いわゆる加害者も被害者も、ともに、児童生徒である場合だけが「いじめ」に当たるのです。 -
(4)ふざけからいじめに発展する場合も
いじめは、遊びや悪ふざけの形で始まる場合が多々あります。また、LINEやグループメールなど、親や学校の目が届きにくい場所や方法で行われることも多いものです。
他の児童生徒はいじめの事実にうすうす気が付いているという場合でも、次第に慣れていき、注意をしたり、教員に届けたりしないまま放置されることも多々あります。
また、いじめられた被害者の子どもは、被害に遭っているという事実をなかなか親や学校に話さない傾向があります。
「口止めされている」「仕返しされるかもしれない「恥ずかしい「親に心配をかけたくない」「弱みを握られている」など、さまざまな気持ちが複雑にからみあい、いじめられている自分を開示できない状態に陥っていきます。
このような理由から、いじめの発見が遅れて、被害が大きくなることが多々あるのです。
3、学校や加害生徒、その親に対してできること
仮に、自分の子どもがいじめを受けていることがわかったら、どのような対応をとるべきなのでしょうか。
以下では、学校と加害者である児童生徒やその親について、それぞれに対してとれる対応を解説します。
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(1)学校に対する請求
いじめが発覚した場合は、まずは学校に対して、しっかりとした事実確認を求めましょう。
保護者としては、実際に何が起きたのか知りたいという気持ちが一番でしょう。しかし、保護者は学校での出来事や、児童生徒同士のやりとりを直接知ることはできません。
学校は、いじめが起きたらその事実確認を行うことが法律で決められていますから、とにかく徹底的な確認を求めましょう(いじめ対策推進法23条2項)。
さらに、いじめを受けた被害児童と保護者に対する支援を求めることもできます。
具体的には、心理的な支援や学校に行けなくなった場合の対応などです。また、いじめを行った加害児童に対する指導や、加害児童の保護者に対して助言を行うことも学校の責務です。
被害者側の保護者としては、学校に対して調査や報告だけでなく、加害者への対応も毅然(きぜん)とした態度で求めましょう。
そして、学校側がいじめの事実を知りながら放置したり、学校として必要とされる責任を怠ったりする場合には、学校に対して民事責任を追及できる可能性があります。
具体的には、いじめによって生じた損害の賠償を求めるということです。
いじめによって生じた損害とは、精神的苦痛に対する慰謝料が代表例です。子どもがけがをした場合はその治療費、物を壊されるなどした場合は、その物の損害分なども損害賠償の対象となります。 -
(2)加害児童生徒の民事責任
いじめは被害者の心身を傷つける違法な行為です。したがって、被害者は加害児童生徒に対して、民法709条の不法行為責任として、損害の賠償を求めることができる可能性があります。
賠償を求める損害とは、いじめられた子どもの精神的苦痛に対する慰謝料や、治療費、物の損害分などが含まれます。ただし、不法行為によって賠償責任を問うためには、加害者に責任能力があることが条件です。
責任能力とは、自分の行為が、法的な責任を負う可能性を理解できる能力で、おおむね12歳前後で認められるケースが一般的です。
たとえば、加害児童が9歳となると、たとえ行った行為がいじめに当たるとしても、児童に責任能力が認められない可能性が十分にあります。
この場合、加害者である児童に対して直接の損害賠償請求は認められません。この場合は、その加害児童に代わって、その保護者に対して損害賠償を求めることができます(民法714条)。 -
(3)加害生徒の親への請求
いじめを行った加害生徒の親に対して、民事責任を追及する方法は2つ考えられます。
ひとつは、前記のように、加害児童自身の年齢が低く、責任能力が欠ける場合に、民法714条に基づいて責任追及する方法です。これは、子どもの責任を親が肩代わりするやり方と言ってよいでしょう。
もうひとつは、加害児童生徒自身に責任能力がある場合に、児童生徒の責任とは別に、保護者自身にも、いじめが起きた責任があるとして、賠償を求める方法です。これを実現するには、加害児童生徒の保護者自身が、親として求められるしつけや教育を行わなかったために、いじめが起きてしまったという因果関係を立証する必要があります。 -
(4)加害児童の刑事責任
いじめの中には、犯罪行為に該当するものもあります。
たとえば、以下のような行為が犯罪として成立する可能性があります。- 殴る、蹴る、高所から突き落とすなどの「暴行
- 暴行によって被害者にけがをさせる「傷害」
- 脅して不当に金銭を要求する「恐喝」
- 暴行や脅迫によって被害者から金品を無理やり奪う「強盗」
この場合は、加害児童に対して刑事責任を追及することもできます。刑事責任を求める場合は、被害者が警察に被害届を出して、事件について捜査を求めることになります。
ただし、加害者の児童生徒が未成年である場合は、原則として少年法によって手続きが進められます。よほどの重大事件でない限り、家庭裁判所で調査が行われ、少年審判事件として処分が下されることになります。刑事裁判によって刑罰が科されるわけではありません。
なお、14歳未満の児童生徒については、刑事責任能力に欠けるとされているため、重大事件であっても刑事罰は科されず、児童相談所に警察が通告し、一定の重大犯罪にあたる場合は児童相談所に送致された後少年事件として家庭裁判所で少年審判を経ることになります。
4、いじめ被害について弁護士ができること
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(1)学校との交渉
子どものいじめ問題は、いじめられた児童生徒のいる当該学校が窓口になって対処することがいじめ防止対策推進法の定めです。したがって、保護者としては、まずは学校に事実確認や対応を求めることになりますが、学校側が必ずしも誠実に対処してくれるとは限りません。そんな時は、弁護士が代理人として交渉することで話が進む場合があります。
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(2)加害者側との交渉
いじめの被害者としては、加害者に対して損害賠償を求めたいという気持ちもあるでしょう。しかし、損害賠償はあくまで法律論ですから、やり方はもちろん、適正な金額がわからないという場合もあります。そういった場合は、弁護士に相談し、加害者に対する対応を検討することが重要です。
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(3)刑事処分も弁護士に相談できる
加害者側に刑事処分を求めたい場合も、弁護士に相談すると的確なアドバイスがもらえます。被害届や告訴の方法、捜査の進み方や、加害者の処分の見込みなど気になることがあれば、積極的に弁護士に確認しながら、方針を決定していくことをおすすめします。
5、まとめ
大切なお子さまがいじめに遭ってしまったら、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。いじめ問題の経験が豊富な弁護士が、被害者側の立場で、全力でサポートします。
いじめ問題はいじめられた本人はもちろん、ご家族にとっても負担が大きく、できるだけ早く解決したいものです。悩んだ場合は早めに弁護士に相談するようにしましょう。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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