小学校で子どもがケガをしたら!? 災害共済給付制度や損害賠償請求について
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小学生の子どもがいると、学校でケガをすることもあるでしょう。
学校でのケガといえば災害共済給付制度を利用して給付金を申請する方法が一般的ではありますが、場合によっては、学校や教職員、そしてケガをさせた加害者の児童やその親に対する請求も考えられます。
本記事では災害共済給付制度を説明するとともに、学校や加害者側に対する損害賠償請求の可能性について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が詳しく説明します。
1、災害共済給付制度とは?
「災害共済給付制度」とは、子どもが学校の管理下でケガなどをした際に、一定の給付金(災害共済給付)が支払われる制度のことです。学校生活で起きるいろいろな事故やトラブルから発生した損害について、幅広くカバーしてくれるのが災害共済保険給付の強みです。独立行政法人日本スポーツ振興センターが主催しています。
日本スポーツ振興センターと学校の設置者との契約に基づき学校の管理下における児童生徒の災害について、災害共済給付が支払われます。
具体的には、学校で児童がケガをした場合に医療機関に支払った医療費、ケガや疾病の程度に応じた見舞金、心身に障害が残った場合の障害見舞金、児童が死亡した場合の死亡見舞金などが災害共済給付契約に基づいて払われる仕組みです。
2、どのような場合に給付金が支払われる?
子どもが学校でケガをした場合、次の要件をいずれも満たす場合には、災害共済保険が適用になります。
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(1)けがをした場合の災害共済給付の支払い要件
- ① ケガの原因となった事故が「学校の管理下」で発生したものある場合
- ② その事故によるケガの治療費等の額が5000円以上の場合
なお、「学校管理下」とは以下の場合に限られます。
① 授業中の事故
正規の学校授業に加え、入学式、卒業式などの行事、運動会、発表会、遠足、修学旅行などの活動も含まれます。
② 課外指導中の事故
部活動、臨海学校、プール水泳指導、生徒指導、進路指導などが広く含まれます。
③ 休憩時間、その他学校側の指示により学校にいる場合の事故
休憩時間、始業前、昼休み、放課後など
④ 通学中の事故
通学、帰宅途中(ただし、通常のルートを通っている場合に限る)
これらの条件を満たす事故は、すべて災害共済保険制度の対象となります。 -
(2)保護者からの申請が必要
なお、災害共済保険制度は、あくまで申請して初めて支給される給付制度です。被害を受けた児童の保護者が申請することで初めて支給が得られます。
学校で子どもがケガをした場合は、災害共済給付金について学校に問い合わせながら、忘れずに申請をするようにしましょう。 -
(3)申請の流れ
学校で子どもがケガをした場合は、まず学校にそのことを確認したうえで、災害共済保険制度申請用の用紙を学校から受け取ってください。その用紙をもって医療機関に受診し、医療機関で証明をもらいます。もらった証明書を学校に提出すれば学校を通して申請手続きが進められます。
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(4)申請できる期間に注意
なお、ひとつの事故で起きたケガについての医療費の支給は、初診から10年の間、継続して受けることができます。ただし、医療費の月分ごとに、2年の間に請求しなければ時効となるので、定期的に忘れずに請求しなければなりません。
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(5)対象となる学校
災害共済給付の対象となる学校とは、義務教育諸学校、高等学校、高等専門学校、幼稚園、幼保連携型こども園、高等専修学校、保育所等で、私立、国立、公立を問いません。
義務教育諸学校の中には、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程、特別支援学校の小学部及び中学部を含みます。 -
(6)給付されない場合
事故が第三者の加害行為による災害で、その加害者から給付を受けた時及び他の法令の規定による給付を受けられるとき及び非常災害(地震、津波、洪水など)で一度に多数の児童生徒が災害に遭い、給付金の支払が困難になった時及び高等学校又は高等専修学校の生徒及び高等専門学校の学生の故意等による災害(自殺など)には給付が行われません。(ただし、いじめ、体罰その他の当該高校生等の責めに帰することができない事由により生じた強い心理的な負担により故意に死亡したとき等については、平成28年4月1日以後に生じた場合は、給付の対象となります。)
また、重過失(単車通学におけるスピード違反など)による災害については、一部給付の減額が行われます。
3、学校や教職員に対して損害賠償請求できる?
子どもが学校でケガをした場合、災害共済保険給付とは別に、学校に対して損害賠償を求めることが考えられます。具体的には、教職員の監督義務違反を主張して請求することになります。
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(1)学校に対する請求ができる場合
● 使用者責任
学校事故が起きた場合、その事故の発生について学校側の責任を問えるのは、教職員の故意または過失によって事故が生じた場合に限られます。この場合、学校は、教職員の使用者として、被害者に対して損害賠償義務を負うことになります。
具体的には、加害児童が被害児童にケガをさせることが分かっていたのに止めようとしなかった場合などが考えられます。
さらに、学校事故について、学校の責任を問うためには、教職員の行為が学校の事業の執行につき行われたものであることとの要件が必要です。
● 債務不履行責任
また、学校側に対して契約上の責任を追及して、損害賠償を請求していくことも考えられます。具体的には、学校側は生徒に対して契約上、生徒の安全を配慮する安全配慮義務を負っているにもかかわらず、これを果たさなかったとして、損害賠償責任を追及していくことが考えられます。 -
(2)公立学校の教員に対する請求
公立学校での学校事故では、たとえ教員の故意または過失によって子どもがケガをした場合でも教職員自身に対する損害賠償請求は認められません。
最高裁判例によって「公権力の公使に当たる国又は公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責任を負わないと解するのが、相当である」と判断しているためです。
公務員の活動が萎縮することのないようにという配慮のため、公務員は厚く保護されているのです。 -
(3)国立学校・私立学校の場合
国立学校や私立学校で起きた学校事故で子どもがケガをした場合は、担当教員に対する直接の損害賠償請求も可能とされています。とはいえ、担当教員個人を相手にしても、賠償金を払える十分な資力・経済力を持っているかどうかわかりません。
そのため、教員個人を相手にできる場合でも、教員ではなく学校を相手とするか、あるいは教員と学校の両方を相手にして、損害賠償請求を行う方が安全かつ一般的な手法です。
4、加害者児童や加害者の保護者に対して損害賠償請求はできる?
子どもがケガをした場合、ケガをさせた加害者である児童や、その保護者に対して損害賠償請求する方法も考えられます。この場合は、加害児童に責任能力が認められるかどうかが大きな境目となります。
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(1)加害児童に責任能力がない場合
民法では、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない(民法第712条)」と規定しています。
ここにいう、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」のことを、「責任能力」と言います。
もう少しわかりやすく言えば、自分の行動によって何らかの法的責任を負う結果が生じることを理解できる程度の能力という意味です。
民法712条によれば、責任能力がなければ、たとえ相手にケガをさせた場合でも、損害賠償をする義務がないということになります。
この場合、その責任無能力者の代わりに、未成年者の監督者(「監督義務者」といいます)が原則として賠償責任を負います(民法714条)。
ということは、責任能力のない子どもが相手にケガをさせた場合、被害者は、その監督義務者である親に対して、損害賠償請求をすることができるのが原則です。
なお、未成年者の責任能力はおおむね11~12歳程度で認められています。
それくらいの年齢ならば分別もつき、物事の善悪もわかってくるだろうと考えられるからです。
したがって、10歳未満くらいとなると責任能力が認められない可能性が高く、この場合は、子ども自身ではなく、その監督義務者である親に対して損害賠償請求を起こしていくことになります。
ただし、この場合でも、必ずしもも親の賠償責任が認められるわけではありません。
例外として、監督義務者である親が、しっかりと子どもを監督していたような場合や、監督していても損害が発生することは避けられなかったといえる場合には、親も損害賠償責任を負わないことになっています。 -
(2)加害児童に責任能力がある場合
加害児童に責任能力が認められる場合は、原則として加害児童本人に対して損害賠償責任を求めることになります。
ただし、この場合に問題となるのは、子ども自身には経済力がなく、賠償能力がない可能性が高いことです。
したがって、損害賠償責任をきちんと果たしてもらいたい場合には、児童だけでなく保護者も相手に加えて請求したいところです。
この点、責任能力がある児童の親が児童と共に賠償責任を負うのは、次の条件をすべて満たした場合に限られます。- ① 親(監督義務者)が相当の監督をすれば加害行為の発生が防止できたこと
- ② 親(監督義務者)がその監督を現実に行うことが可能であったこと
- ③ 監督をせずに放任しておけば、その加害行為が発生するとの蓋然(がいぜん)性が一般的にみても高い場合であったこと
- ④ 上記の条件が認められるにもかかわらず、親(監督義務者)が相当の監督行為を怠ったこと
これらの条件を立証する責任は請求する側である被害者側にありますので、証拠を積み上げて慎重な主張立証活動が必要となります。 -
(3)損害賠償請求できる項目
仮に学校や加害者側に賠償請求を行う場合、どのような項目について請求が可能なのかを確認しておきましょう。
① 治療費
学校でケガをした場合、支出した治療費は原則として災害共済保険制度から支給されます。ただし、医療保険での治療の対象外のものや自分で購入したばんそうこうや市販薬は対象となりません。こうした支出については学校や加害者側に請求することができます。
② 通院交通費
治療のために交通費がかかった場合でも、災害共済保険制度では支給を受けられません。この通院交通費についても、学校や加害者側に請求することが可能です。
③ 慰謝料
ケガをした場合には精神的苦痛が発生していますので慰謝料の請求が考えられます。災害共済保険制度では慰謝料の支払いが予定されていませんので、学校や加害者側への賠償に含めて計算します。
④ 物損
ケガをした際に、衣服や持ち物に損傷があることがあります。これらの物的な損害についても災害共済保険制度では対照となりませんので、学校や加害者側に請求することになります。
5、まとめ
本記事では、小学校での子どものケガについて、災害共済給付制度の概要とともに、学校の責任、そして、ケガをさせた加害児童の保護者の責任について解説しました。学校生活でのケガで保険給付や賠償を受けるためには、事故の前後状況を正確に把握することが大事です。しかし、子どもの記憶はあいまいなことも多く、記憶していても、きちんと言語化して説明することが難しい時もあります。
また、子ども同士でお互いをかばいあう心理から正確な供述が得られないこともあります。
さらに、事故から時間がたつと、当時の証拠が消えてしまい、学校側もことを荒立てたくないという思いで、証拠探しに協力してくれないこともあります。
学校の事故による子どものケガで、学校や加害児童側の対応に納得がいかない場合は、共済給付に加えて、損害賠償請求についても早めに検討することをおすすめします。
学校事故は一般的な事件と比べて複雑な交渉などが必要になりますが、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスでは、学校事故における問題にも丁寧にお話を伺い、対応をしていきます。学校事故にかかわる問題を抱えてお困りの場合は、ぜひ弁護士までお早めにご相談ください。
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