経営する飲食店で食中毒が発生してしまった場合の対応を解説

2022年11月15日
  • 危機管理・不祥事対応
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経営する飲食店で食中毒が発生してしまった場合の対応を解説

神奈川県が公表している食中毒の発生状況に関する統計資料によると、令和3年に神奈川県内で発生した食中毒の件数は51件(患者数295人)であり、そのうち家庭外で発生した件数は40件でした。

飲食店などを経営する方は、食中毒の発生を防ぐための対策を講じることはもちろんのことですが、万が一食中毒が発生した場合の対応についても、正しく理解しておかなければなりません。

対応を誤ると、食中毒の被害を受けた方の健康や生命を害してしまい、お店の信用が毀損されるおそれもあります。本コラムでは、経営する飲食店で食中毒が発生した場合の対応について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。

1、食中毒が発生してしまった場合に、最初に行うべきこと

食中毒が発生した飲食店は、信用が著しく低下してしまいます。
そのため、まずは、万全な対策をして「食中毒を発生させないこと」が最も重要となります。

しかし、さまざまな理由から、予期せずに食中毒が発生してしまう場合もあります。
以下では、万が一食中毒が発生してしまった場合に、飲食店の経営者が最初に行うべき対応を解説します。

  1. (1)顧客への対応

    飲食店が食中毒の発生を知るきっかけとしては、顧客からの連絡であることが最も一般的です。
    お店で食事をした顧客から「食中毒かもしれない」との連絡が入った場合には、以下のような事実について確認してください。

    • 来店をした日時、場所
    • 食事をしたメニュー
    • いつごろから症状があるのか
    • どのような症状があるのか
    • 一緒に食事をした人で同じ症状が出ている人がいるか
    • 顧客の氏名と連絡先


    顧客からの連絡が入った段階では、お店で提供した料理が食中毒の原因であるかはわかりません。しかし、疑いがある以上、むげに否定するべきではありません
    顧客の不安を冷静に受け止めて、原因究明に向けた姿勢をはっきりと示しましょう。

    また、顧客が腹痛・下痢・嘔吐(おうと)・発熱といった症状を訴えている場合には、すぐに病院を受診するように促してください。

  2. (2)情報収集

    顧客の体調不良の原因が食中毒であるかどうかは、病院での検査結果が出なければわかりません。
    一般的に、食中毒であるかどうかがわかるまでには2~3日程度の期間がかかります。
    その間に、飲食店の側では、以下のような情報について確認しておきましょう。

    • 他の顧客からも体調不良の連絡が入っていないか
    • 「他店などで食中毒が出た」という連絡が仕入れ業者に入っていないか
    • スタッフに体調不良を訴える人がいないか


    なお、食中毒が発生したと疑われる日に提供した食材が残っている場合には、後日、保健所から検査のための提出を求められることがあります
    当日の食材は決して廃棄せず、食材ごとの適切な方法によって保存しておきましょう。

2、行政への対応と、保険会社への連絡

病院での検査の結果、顧客の体調不良の原因が食中毒であることが判明した場合には、以下のような対応が必要になります。

  1. (1)行政への対応

    顧客の体調不良の原因が食中毒であることが判明した場合には、顧客または病院から保健所に対して通報がなされます。
    お店側でも顧客から「食中毒の疑いがある」という旨の連絡があった場合には、保健所に連絡をしましょう
    保健所は、食中毒の原因を探るために、食中毒の発生が疑われる店舗への立ち入り調査を行います。
    その際には、以下のようなことを聞かれますので、回答できるようにあらかじめ準備しておきましょう。

    • 食中毒患者が利用した日時、場所
    • 他の利用者からの苦情の有無
    • 同日の利用者数
    • 食中毒が疑われるメニューとその調理工程
    • 体調不良の従業員の有無


    また、以下のような資料の提出も求められます。

    • 調理工程マニュアル
    • 衛生管理マニュアル
    • 仕入れ業者の名簿
    • 従業員の検便検査


    保健所の立ち入り検査によって、飲食店が提供した食事が原因で食中毒が発生したことが判明した場合には、立ち入り検査から数日から1カ月程度で行政指導や行政処分が下されることになります。

  2. (2)保険会社への連絡

    飲食店の経営には、食中毒のリスクが常につきまといます、
    したがって、万が一食中毒が発生した場合を想定して対策を講じておく必要があります。

    保険会社によっては、飲食店で食中毒が発生した場合の損害や費用の補償を目的とした保険商品を提供している場合があります
    保険商品の名称は各保険会社によって異なりますが、「生産物賠償責任保険」「賠償責任保険」「PL保険」などと呼ばれています。
    このような保険に加入している場合には、保険を利用して損害の補塡(ほてん)をすることができる可能性があります。
    したがって、顧客から食中毒の疑いがある旨の連絡が入った場合には、保険会社に連絡をしておくとよいでしょう。

3、法的手続きに進行する場合の流れ

食中毒によって体調を崩した被害者の方から損害賠償請求をされた場合には、まずは話し合い(示談)で対応することになります。
そして、示談が成立しなかった場合には、訴訟という法手続きに侵攻する可能性があります。

  1. (1)被害者との話し合い

    食中毒の被害にあった被害者は、体調不良によって仕事を休む場合があります。
    食中毒によって、腹痛・下痢・嘔吐・発熱などの症状で苦しんだ被害者の方は、多大な精神的苦痛を被ることになります。
    このような場合、飲食店の側は、「医療費」に加えて「休業損害」や「慰謝料」などの損害賠償を顧客側に支払う責任を負うのです。

    まずは、被害者に対して、「どのような損害が生じているのか」を確認しましょう。
    そのうえで、適切な賠償額を提案して示談交渉を進めることになります
    被害者との間で合意が成立した場合には、示談書を作成して話し合いは終了となります。
    また、弁護士に示談交渉を依頼すれば、損害額の正確な見積もりを行ったうえで、専門的・客観的な観点から冷静に交渉を進めることができます。

  2. (2)訴訟対応

    被害者がお店側の提示した賠償額に納得しなかった場合には、裁判所による判断を求めて訴訟提起をすることがあります。
    訴訟提起するかどうかは、被害者の自由であるため、それを止めることはできません。
    訴訟を提起された場合には、被害者の主張内容を精査したうえで、適切に反論をしていく必要があります。

    訴訟に発展するケースとしては、食中毒の原因に関する認識について争いがあるケースから、損害額の見積もりが顧客側と飲食店側で異なるケースなど、さまざまなものがあります。それぞれのケースによって、飲食店として取るべき対応は異なってきます。
    したがって、被害者から訴訟提起をされた場合には、早い段階から弁護士に相談して、今後の対応を協議していくことが大切です
    なお、裁判は、通常はおおむね1~2カ月に1回のペースで開かれることになります。
    訴訟提起から判決までに1年以上の期間が必要なることも珍しくないので、注意してください。

4、食中毒に関する問題解決なら弁護士に相談を

食中毒に関する問題が発生した場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)食中毒発生後の対応をアドバイスできる

    顧客から食中毒の疑いがある旨の連絡が入った場合には、突然のことで動揺してしまい、どのような対応をすればよいかわからないという方も多いでしょう。
    お店側の過失によって食中毒を発生させてしまった場合には、初動を誤ることで取り返しのつかない被害が生じるおそれがあります。
    そのため、直ちに適切な対応をとることが重要です。

    弁護士は、食中毒が発生した場合の顧客の対応、保健所の対応、マスコミの対応などを熟知しております
    弁護士に相談をすることによって、今後の具体的な対応方法を把握することがで切るでしょう。

  2. (2)具体的な対応を弁護士に任せることができる

    食中毒の被害者から損害賠償を求められた場合には、食中毒の原因がお店側にある場合には、基本的にはそれに応じる必要があります。
    もっとも、被害者から請求されたお金をそのまま支払えばよいというわけではなく、被害者側の請求内容を精査したうえで、支払うべきお金はきちんと支払うようにしなければなりません。
    そのためには、被害者側の請求額が適切なものであるかどうかを判断する必要があります。

    法律に精通した弁護士であれば、請求額について、客観的かつ専門的な観点から判断できます
    また、弁護士は、飲食店側の代理人として被害者との示談交渉や面談などを代行することができます。
    飲食店の経営者が直接に交渉する場合よりも、被害者の感情を逆なですることなく、適切な賠償額での合意をまとめやすくなるでしょう。

  3. (3)訴訟になった場合でも弁護士であれば対応可能

    被害者から訴訟提起された場合には、被告として裁判に対応する必要があります。
    裁判では、主張や反論がある場合には、「準備書面」という書面にまとめて提出をしなければなりません。また、飲食店側にとって、有利な事実を認定させるもらうためにはそれを裏付ける証拠を提出する必要があります。
    裁判は、客観的な証拠に照らした適切な主張立証(反証)が必要な手続きです。
    したがって、裁判に関する知識と経験を持たない個人には、適切に対応することは難しいでしょう。

    特に集団での食中毒事件が生じた場合には、損害賠償金は高額なものになるおそれがあります
    店側の主張を裁判に反映させるためには、専門家である弁護士に対応を任せることをおすすめします。

5、まとめ

飲食店の経営者は、食中毒を防ぐためにさまざまな取り組みをしているでしょう。
それでも、予期せぬ原因から、食中毒が発生してしまうことがあります。
そのような場合には、飲食店側のダメージを最低限に抑えるための適切な対応が必要になります。

もし経営しているお店で食中毒が発生した場合には、お早めに、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています