「自閉症の子どもがいる」ことを理由にして離婚することはできる?

2024年05月23日
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「自閉症の子どもがいる」ことを理由にして離婚することはできる?

藤沢市が公表している統計資料によると、令和2年の藤沢市内の離婚件数は、629件でした。離婚率は1.44であり、全国平均(1.57)よりも低い水準となっています。

子どもが自閉症と診断された場合には、子どもの療育が必要になるなど、育児に大きな負担が生じます。夫婦で協力して対応できればよいですが、配偶者が育児に協力できない場合には夫婦の間に溝が生じてしまい、離婚を考えることもあるでしょう。

本コラムでは、「子どもが自閉症であること」は法律的に離婚の理由として認められるかどうかや、離婚を検討する際に知っておくべきことについて、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。

1、自閉症の子どもがいることの影響とは

まず、一般的に自閉症の子どもがいる夫婦の離婚率が高くなると考えられる理由について、概要を解説します。

  1. (1)自閉症とは

    自閉症(自閉スペクトラム症)とは、相手の考えていることを読み取るのが苦手であったり、特定のことに強い興味や関心を示しこだわりが強かったりするなどの特徴がある、発達障害の一種です。

    自閉症は、脳の働き方の違いによって生じるものであるため、親の子育てが原因で生じるものではありません。
    また、子どもが自閉症と診断されたとしても、自閉症の特性の現れ方は人それぞれに異なるため、子どもの特性に応じた支援をしていくことが必要になります

  2. (2)自閉症の子どもがいる夫婦の離婚率は高い

    一般論として「自閉症の子どもがいる夫婦は、そうでない夫婦に比べて離婚率が高くなる」といわれています。
    離婚率が高くなる理由としては、下記のような問題が考えられます。

    ① 親の生活に制限がかかる
    自閉症の子どもがいる場合には、症状の軽重によって親の負担は異なってきますが、医療機関や子育て支援機関、療育機関との連携が必要になります。
    そのため、一般的な家庭に比べて、子どものことで親が対応しなければならない事項が多くなります

    とくに自閉症の特性が原因で集団行動が難しい子どもであった場合には、保育園や幼稚園への入園を断られてしまうこともあります。
    そうなると、親にかかる負担は非常に大きなものとなるでしょう。
    その結果、育児の負担が原因で仕事や家庭生活に支障が生じると、夫婦の双方がストレスを抱えることになり、すれ違いが生じてしまう可能性もあります。

    ② 夫婦の考え方のズレ
    自閉症の治療の基本は、「療育」と呼ばれる、子どもの特性に合わせたプログラムにより本人の力を引き出してあげる方法が基本となります。
    しかし、自閉症という症状への理解の乏しさから、「普通の子どもと同じような教育を受けさせてあげたい」と考える親も多くいます。
    そして、夫婦の片方は「療育により少しずつ生活上の困難を減らしてあげたい」と思っているのに、もう片方が通常の教育を子どもに受けさせたいと考えているなら、夫婦間で考え方が対立してしまうことになるでしょう

    このように、子どもの治療や教育などに関して夫婦の考え方にズレが生じてしまうことが、離婚のきっかけになることも考えられます。

    ③ 相手へのサポートの有無・程度
    自閉症の子どもがいる場合、親は子どもへのサポートのために多くの時間を割かなければなりません。

    お互いに支え合って子どもの世話をしていけばよいですが、どちらか一方に負担が偏っていると、それに対する不満やストレスがたまり、相手に対する信頼や愛情を失ってしまうことにもなりかねません
    そして、信頼や愛情を失った相手との結婚生活を続けることに意味を感じられず、離婚を決意する場合もあるでしょう。

2、自閉症の子どもがいることを理由に離婚できる?

以下では、自閉症の子どもがいることで夫婦にすれ違いが生じた場合に、「子どもが自閉症である」ということを理由に離婚をすることは可能なのかどうかについて解説します。

  1. (1)協議離婚であればお互いの合意があれば離婚できる

    協議離婚とは、夫婦が話し合いを行い、お互いの合意により離婚をする方法です。

    協議離婚であれば、お互いが離婚することに納得しているのであれば、どのような理由であっても離婚をすることが可能です
    そのため、「子どもが自閉症である」という理由でも離婚することができます。

  2. (2)離婚調停での話し合いで離婚に応じてくれれば離婚できる

    相手が離婚に応じてくれないという場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。

    離婚調停は家庭裁判所で行う手続きではありますが、最終的には当事者双方の合意に基づくものであるため、協議離婚と同じく、お互いの合意があればどのような理由であっても離婚をすることができます。
    また、離婚調停では家庭裁判所の調停委員が話し合いに関与してくれるため、当事者だけでは難しい話し合いについても、調停委員による調整が助けになって合意が成立しやすくなる場合があります

  3. (3)裁判離婚では法定離婚事由がなければ離婚できない

    調停でも相手が離婚に応じてくれないという場合には、離婚訴訟を提起して、裁判所に離婚の可否を判断してもらうことになります。
    離婚裁判では、離婚するにあたって当事者の合意は必要ありませんが、その代わりに、以下のような「法定離婚事由」の存在が必要になります

    • 不貞行為
    • 悪意の遺棄
    • 配偶者の生死が3年以上不明
    • 回復の見込みのない強度の精神病
    • その他婚姻を継続し難い重大な事由


    「子どもが自閉症である」というだけは、上記の法定離婚事由のいずれにも該当しないため、それだけでは裁判に離婚を認めてもらうのは困難といえます。
    もし他に法定離婚事由にあたる事情が存在しない場合には、裁判離婚ではなく、協議離婚または調停離婚による離婚を目指す必要があります。

3、離婚を検討する際に知っておくべきこと

以下では、離婚の話し合いを進める際に重要になるポイントなど、離婚を検討する際に知っておくべきことを解説します。

  1. (1)親権者を決定する

    子どもがいる夫婦が離婚する際には、どちらか一方を親権者に指定しなければなりません。親権者を決める際には、まずは夫婦で話し合うことになります。
    そして、話し合いでは決まらない場合には、最終的に離婚裁判において裁判所に判断してもらうことになります。
    その際には、以下のような要素が考慮されることになります

    • 母性優先の基準………母性的な監護が可能な親が優先される
    • 監護の継続性の基準…特別な事情のない限り現在の監護者が優先される
    • 兄弟不分離の原則……複数の子どもがいる場合には、同一の親権者にするという原則
    • 子の意思の尊重………子どもの意思も尊重して親権者を判断するという原則
  2. (2)面会交流の実施条件を定める

    離婚時に親権を獲得することができなかった側の親は、離婚後の面会交流を充実させることで、子どもとの時間を確保することができます。
    ただし、離婚後の面会交流は、さまざまな事情からトラブルが生じやすいため、以下のような条件を明確に定めておくことが大切です。

    • 面会交流の回数、日時、方法
    • 子どもの引き渡し方法
    • 監護親の立ち会いの有無
    • 第三者の立ち会いの有無
    • プレゼントを贈ることの可否
    • 子どもの学校行事への参加の可否
  3. (3)養育費を算定する

    非監護親は、監護親に対して、子どもの衣食住や教育費、医療費などを含めた養育費の支払いが必要になります。

    養育費の金額は、夫婦の話し合いによって決めていくことになりますが、その際には裁判所が公表している養育費の算定表を利用することができます。

  4. (4)慰謝料は請求できるのか

    離婚に至る原因を作り出した配偶者(有責配偶者)に対しては、慰謝料を請求することができます。
    代表的なものとしては、配偶者からの暴力や配偶者による不貞行為などが挙げられます

    慰謝料を請求する際には、配偶者の有責性を裏付ける証拠の収集が重要になります。
    証拠がなければ相手側に原因があっても慰謝料を請求できないという事態になるおそれもあるため、離婚を切り出す前に、十分な証拠を収集しておくことが大切です。

4、自閉症の子どもがいる場合に離婚する際の進め方

以下では、自閉症の子どもがいる場合に離婚の話し合いを進めていく際の流れを解説します。

  1. (1)障害児専門保育園などの施設を利用できないか検討する

    結婚中は主婦(主夫)として生活している方であっても、離婚をしたなら、基本的には自分で働いて生活費を稼ぐ必要があります。
    しかし、自閉症などの障害を持つ子どもの場合には、通常の保育園などに入園することが難しいことがあります。
    保育園を利用することができなければ、自宅で子どもの面倒をみなければならず、働きに出ることができない場合もあるでしょう。

    自分が子どもの親権をとる予定がある場合には、離婚後に安心して働くためにも、障害児専門保育園などの施設を利用できるかどうかについて十分に検討しておく必要があります。

  2. (2)離婚の話し合い

    自閉症の子どもの世話を一方の親だけがしている状況では、子どもが自閉症という理由で離婚を進めようとしても、相手がこちらの事情を理解してくれない可能性があります。

    子どもが自閉症であることにより生じる大変さを理解してもらうためにも、相手に対して事情を具体的かつ詳細に説明するようにしましょう。

  3. (3)離婚調停の申し立て

    離婚調停では、家庭裁判所の調停委員に、離婚する理由について理解してもらう必要があります。

    調停委員であっても、自閉症という障害についてきちんと理解しているとは限りません。
    自閉症に関する資料などを証拠として提出するなどの方法をとりながら、自閉症についての理解を深めてもらいましょう。

  4. (4)離婚訴訟を提起する

    子どもが自閉症という理由だけでは、法定離婚事由には該当しないため、裁判で離婚するのは難しいといえます。
    しかし、子どもが自閉症であることがきっかけで、夫婦ゲンカになり配偶者から暴力を振るわれた場合や配偶者が家事や育児に非協力であった場合、配偶者が不貞行為をしたような場合には、法定離婚事由に該当する可能性があります。
    また、長期間にわたって別居した場合にも、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性もあります。

    離婚訴訟を提起する際には、離婚を求める具体的な事情が法定離婚事由に該当するかどうかを見極めてから行うことが重要です

5、まとめ

自閉症の子どもがいる家庭では、そうでない家庭に比べて離婚率が高いといわれています。自閉症の子どもがいることで夫婦の間にはさまざまな苦労が生じるため、離婚という結果になることもやむを得ない場合もあるでしょう。
ただし、「子どもが自閉症である」という理由だけでは裁判所に離婚を認めてもらうことは困難であるので、基本的には協議離婚または調停離婚による離婚を目指すことになります。

離婚をする際には、法律の専門家である弁護士のサポートが、さまざまな場面で効果を発揮します。
離婚を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています