離婚調停での証拠は必須? 証拠の必要性と証拠になり得るものとは
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令和2年における神奈川県の離婚件数は合計1万3509件で、そのうち1040件(7.7%)が調停離婚でした。
離婚調停を有利に進めるためには、離婚原因や離婚条件に関する証拠を集めておくことが大切です。離婚調停に用いる証拠の収集などについては、弁護士に相談することで、具体的なアドバイスを得ることができます。
また、調停が不成立に終わり訴訟に発展した場合、離婚調停の記録や相手方の発言は裁判の証拠になるかということも疑問に思う方も多いでしょう。
本コラムでは、離婚調停における証拠の要否・重要性・具体例・収集方法や離婚調停の記録が裁判で証拠となりうるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。


1、離婚調停とは?
まずは、離婚調停の概要や手続きの流れについて、基本的な知識を解説します。
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(1)調停委員の仲介により、離婚について話し合う手続き
離婚調停とは、調停委員の仲介により、離婚に応じるか応じないか、応じる場合には離婚の条件をどうするかについて話し合う手続きです。
調停期日では、有識者から選任される調停委員が夫婦双方と個別に面談を行って、両者の間で折り合いがつけられないか調整を行います。
最終的に離婚とその条件について合意に至れば、その内容をまとめた調停調書が作成されて、離婚が成立します。他方で、合意に至らなければ、「不成立」として離婚調停は終了します。
中立的な第三者である調停委員が間に入ることにより、夫婦が直接話し合う離婚協議よりも冷静な話し合いが期待できることが、離婚調停のメリットです。 -
(2)離婚調停が不成立の場合は離婚訴訟
離婚調停が不成立となった場合において、引き続き離婚を求めるためには、家庭裁判所に離婚訴訟(離婚裁判)を提起する必要があります。
離婚訴訟を提起する目的は、裁判所の判決によって強制的に離婚を認めてもらうことです。家庭裁判所は、以下のいずれかの法定離婚事由(民法第770条第1項)が存在する場合に限り、離婚を認める判決を言い渡します。
- (a)不貞行為
- (b)悪意の遺棄
- (c)3年以上の生死不明
- (d)強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと
- (e)その他婚姻を継続し難い重大な事由
離婚訴訟の判決による離婚は、離婚協議・離婚調停とは異なり、法定離婚事由がなければ認められません。
そのため、離婚を求める側としては、法定離婚事由の存在を証拠に基づいて立証することが重要になります。
2、離婚調停に証拠は必要か?
離婚調停はあくまでも話し合いの手続きであるため、証拠を提出せずとも話し合いをすること自体は可能です。
ただし、離婚調停の段階から有力な証拠を準備して提出することで、話し合いをより円滑に進めていくことが期待できます。
また、離婚調停が不成立となって、離婚訴訟に移行する場合には、証拠の提出がより重要になります。
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(1)離婚調停は話し合いの手続き
離婚調停は、あくまでも話し合いによって離婚成立を目指す手続きです。
夫婦双方が合意すれば、証拠がなくとも、基本的に合意のとおりの条件によって離婚が成立します。
法定離婚事由が存在するか否か、収入などの経済状況はどうなっているかなどの客観的な事情にかかわらず、離婚調停では、当事者間の合意が優先されます。
このため、離婚調停では、必ず証拠を提出しなければならないというものではありません。 -
(2)証拠はあった方がよい|調停委員を味方につけられる
証拠の提出が必須ではないとはいえ、有力な証拠を提出できれば、離婚調停を円滑にかつ有利に進められる可能性が高まります。
離婚調停において重要な役割を果たすのは、仲介者である調停委員です。
調停委員は、夫婦双方から提出された資料などを総合的に考慮して、審判や訴訟に移行した場合の見通しも踏まえて、折り合いがつけられないか調整を行います。
このため、証拠を提出できれば、その証拠からわかる事実を前提に、話し合いを進めていくことができます。また、相手方が当該事実について争っていたとしても、調停員から相手方に対する説得が期待できます。
したがって、離婚調停において証拠の提出は必須でないものの、できる証拠を提出したほうがより有利な結果を期待できるようになるといえます。 -
(3)離婚訴訟(離婚裁判)では証拠が必須|早めに証拠を準備すべき
離婚調停が成立しない可能性が高い場合は、その後の離婚訴訟を見据えた対応も必要となってきます。
特に、自身が離婚を求める側である場合には、離婚訴訟になった際には法定離婚事由の存在を主張立証しなければなりません。
その場合には、証拠に基づいて事実を証明することが必要になります。
また、離婚を認める判決のなかでは、各種の離婚条件についても判断が示されます。その判断は、訴訟において提出された証拠によって大きく左右される場合があります。
このような離婚訴訟における対応を考慮すると、離婚調停の段階から十分な証拠をそろえておくべきといえるでしょう。
3、離婚調停において有効な証拠例
離婚調停を行う際には、争点となる可能性のある事項に関して、有力な証拠を準備しておくことが大切です。
具体的には、以下のような事項について、それぞれに適した証拠を集める必要があります。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- DV
- モラハラ
- 財産分与、養育費、婚姻費用
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(1)不貞行為の証拠例
- 不貞行為の現場映像、録音
- 自宅やホテルに出入りする場面の映像、写真
- 性交渉の事実を推認させるメッセージ履歴、会話の録音
- 知人の証言
「不貞行為」とは、配偶者以外の者と性交渉を行うことを意味し、法定離婚事由のひとつとされています(民法第770条第1項第1号)。
俗に「浮気」や「不倫」などとも呼ばれる行為です。
不貞行為そのものを撮影した動画や録音を確保するのは難しいでしょうが、自宅やホテルに出入りする場面の映像や写真であれば、探偵(興信所)に依頼するなどして入手できる可能性があります。
なお、証拠収集の目的で、相手方に無断でLINEアカウントやSNSアカウントにログインする行為は、不正アクセス禁止法違反に問われる可能性がありますので、ご注意ください。 -
(2)悪意の遺棄の証拠例
- 別居前後のメッセージ履歴、会話の録音
- 生活費の分担状況に関する資料(家計簿、預貯金の入出金履歴など)
- DV、モラハラに関する証拠(後述)
「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく夫婦の同居義務や協力義務を放棄する行為であり、法定離婚事由のひとつとされています(民法第770条第1項第2号)。
具体的には、正当な理由なく、配偶者が無断で別居することや、配偶者が生活費を全く支払おうとしないこと等が悪意の遺棄に該当し得る場合です。
また、DVやモラハラも悪意の遺棄を基礎づけるひとつの事情となり得ます。 -
(3)DVの証拠例
- 医師の診断書
- DV行為を撮影した動画、録音
- DVに関連するメッセージ履歴
DVは、「悪意の遺棄」または「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条第1項第5号)として、法定離婚事由に該当する場合があります。
身体的な暴力を伴うDVの場合、医師の診断書が特に重要な証拠となります。
殴打などによって生じたケガであることが記載されていれば、配偶者からDVを受けたことの有力な証拠となるでしょう。 -
(4)モラハラの証拠例
- 医師の診断書
- モラハラ行為を撮影した動画、録音
- モラハラに関連するメッセージ履歴
モラハラもDVと同様に、「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法第770条第1項第5号)として法定離婚事由に該当し得ます。
モラハラによって精神疾患を発症した場合にも、医師の診断書が重要な証拠となります。精神疾患の発症に至っていない場合には、モラハラ的な言動の音声やメッセージなどを記録して、証拠化しておきましょう。 -
(5)財産分与・養育費・婚姻費用の証拠例
- 給与明細
- 確定申告書の写し
- 課税証明書
- 預貯金の入出金履歴
- 不動産登記事項証明書(登記簿謄本)
- 不動産の査定書
- 車の査定書
- 証券番号の控えなど
財産分与・養育費・婚姻費用などの経済的な離婚条件は、離婚後の生活を安心して送るため、適切な内容で取り決める必要があります。
財産分与については婚姻中の収入や婚姻中に取得した資産の情報が重要です。また、養育費・婚姻費用については基本的に最新の収入と子どもの人数・年齢に応じて決まります。
特に収入や資産の状況については、客観的な資料に基づいて示せるように準備しておきましょう。
4、離婚訴訟になった場合、調停での発言は証拠になるか?
離婚調停が不成立に終わり離婚訴訟に発展した場合、調停での発言や記録は裁判にどのように影響するのかを解説します。
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(1)離婚調停の発言は原則として非公開
離婚調停の場での発言内容は調停委員によって記録されることがあるものの、調停手続き自体は非公開で行われるものです。
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(2)離婚調停がその後の裁判に与える影響について
●調停委員の心証はその後の裁判には影響しない
調停委員は裁判官とは異なり、裁判の判決に直接関与しません。そのため原則として、調停委員の心証や意見が離婚訴訟の担当裁判官に引き継がれることはありません。
ただし例外として、調停を担当した裁判官が引き続き裁判を担当する場合、調停の場で得た印象が影響を与える可能性は否定できません。
●調停記録は裁判に提出されることがある
調停と裁判は別手続きとして扱われ、調停記録がそのまま裁判に持ち込まれるわけではありません。当事者または利害関係者が家庭裁判所に申請し、裁判所の許可を得た場合に限り、調停記録の閲覧や写しの交付が認められます(家事事件手続法第254条)。
調停記録が裁判において提出された場合、その内容は裁判官の判断に影響を与える可能性があります。
特に、家庭裁判所調査官の調査報告書は重要だといえます。この報告書には、家庭内状況、子どもの福祉、当事者の陳述、調査官の意見などが詳しく記載され、裁判官はその内容を重視します。 -
(3)証拠化目的で離婚調停を利用するのは望ましくない
離婚調停は、双方が合意に達することを目指した解決の場であるため、意図的に証拠化を目的として調停を利用することは、調停制度の趣旨に反する行為とみなされることがあります。調停委員から注意を受けたり、相手方の警戒を招いたりして、かえって円滑な調停の進行を妨げることになりかねません。
離婚調停では誠実に話し合いを行い、第3章で示したような客観的な資料の収集に注力することをおすすめします。
また、訴訟になった場合は、離婚調停中の相手方の主張や提出資料から得られた情報を基に新たな証拠を収集し、それを裁判で活用することも考えられます。
5、離婚問題は弁護士に相談を
配偶者と離婚したい場合には、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は、離婚協議・離婚調停・離婚訴訟の各手続きを全面的に代行して、スムーズな離婚成立を目指します。
法律や裁判例、離婚実務の傾向などをふまえて対応することで、適正な条件による離婚を早期に成立させられる可能性が高まります。
また、不貞行為やDV・モラハラなど、相手方に離婚の責任がある場合には、慰謝料請求についてもサポートします。
さらに、弁護士が代わりに離婚手続きを進めることで、配偶者と直接的なやりとりを行う必要がなくなり、ストレスや精神的な負担が大幅に軽減されることになるでしょう。
配偶者との間の離婚問題については、お早めに、弁護士までご相談ください。
お問い合わせください。
6、まとめ
話し合いの手続きである離婚調停においては、証拠に基づく厳密な立証までは必須ではありません。しかしながら、話し合いをスムーズに進めることや、将来的な訴訟を見据えた対応をすることの重要性をふまえると、離婚調停の段階から有力な証拠を集めておくべきといえます。
ベリーベスト法律事務所は、離婚請求に関する相談を承っております。
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