事実婚(内縁)と年金分割の関係と事実婚を解消するときの注意点

2021年05月18日
  • 離婚
  • 事実婚(内縁)
  • 年金分割
事実婚(内縁)と年金分割の関係と事実婚を解消するときの注意点

ライフスタイルの多様化に伴い、婚姻届を出さずに夫婦として暮らす、いわゆる事実婚カップルも増えてきました。さて、事実婚の夫婦が別れる時、年金分割はできるのでしょうか。法律婚の夫婦と変わらない生活をしていたとはいえ、国の制度である年金分割について、戸籍上は他人である事実婚の妻に請求権が認められるのでしょうか。

今回は、こんな疑問にお答えするべく、事実婚の場合の年金分割請求について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が詳しくご説明します。

1、事実婚(内縁)とは年金分割の関係

  1. (1)事実婚(内縁)とはどういう状態?

    事実婚とは、役所に対する婚姻届は出していないけれど、双方が結婚の意思を持ちながら共同生活を営んでいる状態を指します。周りから見れば夫婦のように見えますが、戸籍上は他人のままです。俗に、内縁関係とも言います。

    事実婚と法律婚の違いは、戸籍の届け出が出ているかという点です。したがって、戸籍が問題とならない事柄については、同じ取り扱いを受けます。
    具体的には、夫婦間の扶養義務や、不貞をしてはいけないという貞操義務、そして別れる場合の財産分与についても、法律婚と事実婚で違いはありません。夫婦である以上、お互いに扶養し、浮気はしてはならず、2人で稼いだ財産は共同財産として扱うわけです。

    他方、相続に関する取り扱いは、法律婚と事実婚とでは異なっています。配偶者は常に相続人となりますが、婚姻関係は戸籍の届け出、つまり婚姻届を提出したことから始まりますから、配偶者に事実婚の配偶者は含まれず事実婚の配偶者は、相手が死亡した場合に相続人とならず原則として相続の権利を主張することできないのです。

  2. (2)事実婚と年金分割

    現行の年金制度においては20歳以上60歳未満の全国民が強制的に加入を義務付けられている「国民年金」を1階部分として、2階部分を「被用者年金」、3階部分を「企業年金」とする3階建て構造になっています。

    年金分割とは、このうち「被用者年金」(厚生年金及び共済年金)を対象として、夫婦の婚姻中の厚生・共済年金の保険納付記録の合計額を夫婦間で分割するものです。
    年金自体を分割するのではなく、分割を受けた側は、分割された分の保険料を納付したものとして扱われ、それに基づき算定された老齢厚生年金を将来受給することになります。

    年金分割は、基本的には、婚姻届を出した法律婚の夫婦を想定した制度です。したがって、事実婚の場合でも年金分割ができるか不安に思う方も多いでしょう。

    結論からいうと、事実婚でも年金分割をすることができます

    そもそも、離婚時の年金分割制度は、夫が保険料を納付できたのは、妻の内助の功(こう)があったからだという考え方に基づいています。この内助の功は、夫婦が共同生活を営む以上、戸籍が入っているかは関係ありません。

    また、老齢厚生年金制度は基本的に夫婦双方の老後等のための社会保障的意義を有しており、内縁関係においても事実婚の夫婦それぞれの老後のための社会保障としての意義を有することに変わりはありません。そこで、事実婚においても、年金分割制度は適用が認められているのです。

2、第3号被保険者とは?

このように、事実婚でも年金分割は可能です。
ただし、年金分割が認められるのは、2人が婚姻関係にあった期間に限られます。したがって、婚姻関係が開始した日と終了した日を具体的に主張しなければなりません。

法律婚の場合は、結婚の日と離婚の日が戸籍によって客観的にはっきりしています。これに対して、事実婚の場合は、客観的に婚姻期間を示すものがないため証明が難しくなっています。

その場合に役立つのが、第3号被保険者の制度です。
第3号被保険者とは、厚生年金加入者である配偶者に扶養されている、20歳以上60歳未満の国民年金加入者をいいます。

法律婚の場合だけでなく、事実婚でも、第3号被保険者として届け出ることは可能です。事実婚の関係にあった一方が他方の扶養に入り、第3号被保険者となると、事実婚をしていたことが客観的に証明できます。したがって、その期間については、年金分割の対象期間として認められます。

なお、年金分割の方法として、合意分割と3号分割の2種類があり、合意分割については全婚姻期間を対象として分割できますが、両者の合意が必要です。つまり、相手が拒否すれば分割を請求することはできません。

3号分割は婚姻期間のうち平成20年4月以降の第3号被保険者であった期間を分割の対象とします。3号分割は相手との合意を必要としませんので、自分で請求することが可能です。

3、年金分割の申請方法

合意分割にしても、第3号分割にしても、請求する側が自分で手続きをする必要があります。具体的には、年金事務所を経由して、厚生労働大臣に対して請求することになります。
その際には、離婚後に標準報酬改定請求書をはじめとする必要書類を年金事務所に提出します。

合意分割の場合は、年金分割について両者が、分割割合も含めて合意していることを示す書面が必要です。分割の請求後、おおむね2~3週間程度で手続きが完了し、当事者それぞれに「標準報酬改定通知書」が届きます。標準報酬改定通知書の記載内容は、分割請求によって変化した年金記録についての説明です。

なお、申請する上での注意点として、時効があるということが挙げられます
事実婚においては、第3号被保険者の資格を喪失し、事実婚が解消されたと認定される日の翌日から2年過ぎると、年金分割への請求権が失効します。また、離婚が成立した後年金分割をする側の当事者が死亡した場合は、相手方が死亡したときから起算して1か月以内に請求を行わなければならないことも念頭に置いておきましょう。

なお、実際に分割請求をする前に、分割をしたらいくらくらい年金が変わるのかを調べることができます。年金事務所で申請手続きができますので、気になる方は先に調べておくとよいでしょう。

4、事実婚(内縁)を解消する際に注意することとは?

事実婚を解消する際に、年金分割とは別の観点で、注意しておきたい点が二つあります。

まず一つ目は、関係を解消する場合に、必ず離婚協議書を作成するということです。法律婚も事実婚も、共同生活を解消するわけですから、お金の精算もしなければなりません。

たとえ、別れるときには円満に関係を解消したとしても、後々にトラブルに発展する可能性もないとは言い切れせん。その際に、書面がなく口約束だけだと、関係解消時にどのような取り決めが行われていたか客観的に証明できるものがない状態になってしまいます。取り決めの内容をしっかりと書面に残しておくことそのものが、トラブルの予防にもなる上に、もし紛争になったとしても客観的な証拠として使うことができます。

加えて、単に書面としてではなく、離婚協議書を公正証書の形式で作成しておくと、より安心です。特に、相手から離婚や養育費をもらう予定がある場合は、今後の支払いをしっかり確保する必要があります。仮に、相手が慰謝料や養育費を支払わなくなってしまった場合を想定する必要があるからです。

離婚協議書を公正証書の形にすること、そして公正証書に金銭の支払期限などを記載し、さらに、期限までに支払わない場合には強制執行を認めるという文言を入れておくことで、不払い時に相手の財産を差し押さえることができるようになります。

この点はとても重要なことなので、関係解消時には、必ず、離婚協議書を作成する、今後の支払い予定がある場合は公正証書まで作成しておくことをおすすめします。そして、具体的な記載内容や表現については、弁護士などの専門家に相談するほうが安心です。

二つ目は、事実婚解消の話し合いがまとまらない場合についてです。
実際、法律婚の離婚時と同様に、夫婦間でもめてしまい、話が進まないことは事実婚でもよくあります。
こうした場合には、家庭裁判所の調停制度が利用できることを覚えておきましょう。

事実婚の場合の調停は、内縁関係解消調停といいます。手続きの仕方や内容は、法律婚の離婚調停とほぼ同様です。

通常は、男女1名ずつの調停委員が当事者の話を聞き、話し合いが進むようにサポートすることになります。原則として、当事者はひとりずつ話を聞かれますので、調停の場面で2人が顔を合わせることはありません。待合室も別々に用意されています。

内縁関係解消調停の場では、内縁関係を解消するかどうか、する場合には、これまで2人で築いた財産をどのように分けるか、慰謝料はどうするか、そして、子どもがいる場合には養育費や面会交流など、あらゆる点について話し合うことができます。

もちろん、年金分割についても、協議することができます。ただし、家庭裁判所を利用するとはいえ、調停はあくまで当事者間の話し合いを調停委員がサポートする仕組みです。

裁判所が何かを決めてくれるわけではありません。
事実婚の場合は、法律婚のように客観的に事実を証明することが難しい場合もあり、単なる言い争いが続く場合もあります。

また、当事者間の認識に違いがあり、それを埋める手段がない場合もあります。調停を利用して話し合いをしても、最終的に双方が納得する内容の合意にたどりつかなければ、調停は不成立で終わってしまいます。

こうなってしまうと、それまでにかけた時間も費用も無駄になってしまいかねません。調停が実りあるものとして進行するように、早い段階で専門家である弁護士などに相談することをおすすめします

5、まとめ

このように、戸籍上の夫婦ではない事実婚の場合でも、年金分割の制度を利用することができます。しかし、事実婚の場合は、法律婚と違って、婚姻関係の期間などを客観的に証明できるものが少なく、年金分割や財産分与を請求しても、紛争が長引いたり、最終的に請求が認められない可能性もあります。事実婚の解消をお考えの方は、前もって弁護士に相談してから、年金分割などの取り決めについて考えをまとめて、書類の準備をするのが安心です。

近年の長寿高齢化に伴い、老後の期間は長くなる見込みです。その長い老後を支える資金源として、年金分割は重要な意味を持つようになりました。将来のためにも、事実婚の年金分割について不安のある方はぜひ当事務所の弁護士までご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています