不正車検をした場合・させた場合の罰則とは? 逮捕される?
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2023年10月、中古車販売大手ビッグモーターで不正な車検や自動車整備があったとして、国土交通省の各地方運輸局は、指定自動車整備事業の指定取り消しや車検業務の停止などの行政処分を行いました。
このように不正車検については、厳しい行政処分の対象となっているほか、犯罪行為として刑事罰の対象でもあります。
そこでこの記事では、そもそも不正車検とはどのようなものなのか、不正車検の場合に問われる可能性がある犯罪などについて、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が分かりやすく解説していきます。
1、不正車検とは
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(1)そもそも車検とは?
そもそも「車検」とは、道路運送車両法によって定められている、自動車が保安基準を満たしているか否かを検査する制度のことで、正式には「自動車検査登録制度」といいます。
自動車や排気量250㏄を超える自動二輪車に乗ろうとする場合、道路運送車両法の保安基準に適合していることを確認するために、国土交通省の検査を受け、自動車の所有を公証するために登録をしなければなりません。
このような自動車の検査の種類は、次の4つに分類されています。- ① 新規検査(道路運送車両法第59条)
- ② 継続検査(道路運送車両法第62条)
- ③ 構造等変更検査(道路運送車両法第67条)
- ④ 予備検査(道路運送車両法第71条)
① 新規検査(道路運送車両法第59条)
「新規検査」とは、登録を受けていない自動車または車両番号の指定を受けていない検査対象軽自動車、もしくは二輪の小型自動車を運行の用に供しようとするときに受けなければならない国土交通大臣の行なう検査のことです。
一般的に新車を購入する際には、購入先のお店が納品前に代行してくれることが多いでしょう。
② 継続検査(道路運送車両法第62条)
「継続検査」とは、自動車検査証の有効期間の満了後も当該自動車を使用しようとする際に受けなければならない検査のことをいいます。
ご自身で行う車検の多くは、この「継続検査」ですので、継続検査を指して「車検」と表現することが一般的です。
③ 構造等変更検査(道路運送車両法第67条)
「構造等変更検査」とは、自動車の大きさ、重量、乗車定員、用途、原動機の型式などの変更があった場合に行う検査のことです。これらの自動車検査証記録事項に変更があった場合には保安基準をクリアしているか否かを再検査する必要があります。
④ 予備検査(道路運送車両法第71条)
「予備検査」とは、登録を受けていない自動車または車両番号の指定を受けていない検査対象軽自動車もしくは二輪の小型自動車の所有者が受ける検査のことです。ナンバープレートが交付されていない自動車について買い手が決まる前にスムーズに車検を通過させる目的で実施されます。 -
(2)不正車検とは?
「不正車検」とは、道路運送車両法に定める保安基準を満たしていないにもかかわらず、または検査しなければならない項目を点検せずに、そのまま自動車検査証を受けることです。
一般的な乗用車の新規検査の自動車検査証の有効期間は「3年」ですので、それ以降は「2年に1回」継続検査(いわゆる車検)を受けなければなりません。
保安基準を満たしていないにもかかわらずそのまま車検を通すことや、十分な検査をしてないにもかかわらずあたかも所定の検査を実施したかのように偽装することは、「不正車検」「ペーパー車検」「闇車検」などといわれます。 -
(3)不正車検が行われる理由
このような不正車検が行われる理由はさまざまです。
車検専門店や民間整備工場において、業務は増加しているにもかかわらず、エンジニアを中心とした人員や設備の増強が追いつかず慢性的に高負荷な状況が続いていることに起因するケースや、短時間で車検・整備作業を行う、「クイック車検」のようなサービスを提供した結果、タイトなスケジュールで検査を完了させなければならないケースなどで不正車検が行われることがあります。
大手自動車ディーラーにおいて、保安基準を満たす値への書き換えや一部の検査を実施しない不正車検が続々と明らかになり、社会的な問題となっています。
また不正改造をしているのに車検を通っている場合には、不正車検が行われている可能性があります。
基本的に、車体の重量規定を超える場合や、ブレーキランプやウィンカーなどの灯火類の指定の色を変える場合、タイヤを八の字にするなど車体からタイヤがはみ出している場合については、検査に合格することはできません。
2、不正車検を行った整備工場や検査委員が問われうる罪
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(1)道路運送車両法違反の罪
道路運送車両法は、継続検査において「当該自動車が保安基準に適合しないと認めるときは、当該自動車検査証を当該自動車の使用者に返付しない」としており、これに違反した場合には、1年以下もしくは50万円以下の罰金またはこれらが併科されます(同法第107条1号、62条2項)。
「自動車検査員は、国土交通省令で定める基準により、当該自動車が保安基準に適合するかどうかを検査し、その結果これに適合すると認めるときでなければ、その証明をしてはならない」とされており、これに違反した場合や、自動車検査員の証明がないのに保安基準適合証や保安基準適合標章を交付した場合(いわゆるペーパー車検の場合)には、指定自動車整備事業者には、1年以下もしくは50万円以下の罰金またはこれらが併科されます(同法第107条4号、94条の5第1項)。
また、道路運送車両法違反については、法人に所属する従業員個人に刑罰が科されるのみならず、同時に法人にも刑罰が科されるという規定(両罰規定)が設けられております。
同法は、「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務又は所有し、若しくは使用する道路運送車両に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する」と規定し(道路運送車両法違反第110条2号参照)、会社にも刑罰が科されることになります。 -
(2)刑法上の罪
自動車検査員の服務や指定整備業務の適正・確実な実施を図ることを目的としている「自動車検査員服務規程」には、自動車検査員の身分について「公務に従事する公務員と同等とみなされる」と規定しています(同規程第2条)。
そのため、自動車検査員は「みなし公務員」あるいは「準公務員」として、刑法その他の罰則の適用などについて公務員に準じる取り扱いを受けます。
したがって、自動車の使用者などから報酬を受け取り、不正に保安基準適合証に署名・捺印するなどの行為があった場合には、収賄罪に問われる可能性があります。
収賄罪とは、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をした」場合に成立する犯罪で、法定刑は5年以下の懲役です(刑法第197条1項)。
要求や約束のみならず「不正な行為をし、又は相当な行為をしなかったとき」には、加重収賄罪が成立し、1年以上の有期懲役となります(刑法第197条の3第1項)。
3、不正車検を依頼した客が問われうる罪
不正車検を依頼した客には、贈賄罪に問われる可能性があります。
自動車検査員は、前述のとおり「みなし公務員」「準公務員」とされているため、刑法の適用については汚職に関する犯罪が成立することになります。
したがって、自動車の所有者が報酬の支払いと引き換えに不正車検を依頼した場合には、贈賄罪が成立する可能性があります。
贈賄罪とは、「賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした」場合に成立する犯罪です。贈賄罪が成立した場合には、3年以下の懲役または250万円以下の罰金が科されることになります(刑法第198条)。
4、不正車検容疑がかかったら弁護士に相談を
不正車検の容疑で警察から連絡が来ている場合には、すぐに弁護士に相談してください。
近年の不正車検問題については、捜査機関も厳しい態度で臨む傾向にあります。
不正車検の問題は従業員個人の問題ではなく、会社全体の問題です。どのような不正が行われていたのか、資料やデータは適切に保存しているかという点は非常に重要です。
もし、従業員や法人の代表者に逃亡または罪証隠滅のおそれがあると判断された場合には、逮捕・勾留される可能性が高いでしょう。
当初から弁護士に依頼して、会社として適切に対応することで身体拘束を回避できる可能性もあります。そして、代理人弁護士に対応を依頼することで、適切な事件を解決できる可能性も高まります。
5、まとめ
この記事では、不正車検が行われた場合に成立する可能性のある犯罪や、その罰則について解説してきました。
不正車検・ペーパー車検が行われている場合には、整備会社の従業員や自動車検査員のみならず会社にも刑事罰が科される可能性があります。
さらには、不正車検を依頼した顧客も罪に問われる可能性があります。
不正車検をしていて刑事事件として立件されそうな場合には、弁護士に相談して対応を依頼することが重要です。
ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスには、刑事事件の経験が豊富な弁護士が在籍しておりますので、ぜひご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています