交通事故に遭ったとき、知っておきたい「被害者請求」とは?

2019年08月21日
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交通事故に遭ったとき、知っておきたい「被害者請求」とは?

神奈川県警は、ホームページで人身交通事故多発エリアをランキング形式で発表しています。そのランキングによりますと、平成30年7月から12月末における第1位は阪東橋駅周辺、第2位は関内駅周辺ということです。幸いにもワースト10にここ藤沢市は入っていませんので、県内では比較的人身交通事故の少ないエリアのようです。ですが、交通事故の被害にはいつ遭うか分かりません。
本コラムでは、万が一事故に遭ったとき、被害者が知っておきたい「被害者請求」の仕組みや、被害者請求を弁護士に依頼することのメリットについて、藤沢市の弁護士が解説します。

1、被害者請求とは

  1. (1)自賠責保険と任意保険の関係と「一括対応」

    被害者請求とは何かを説明するためには、まずは自賠責保険と任意保険との関係を説明しなければいけません。

    万が一の事故のとき被害者に生じる治療費などの損害を補償するため、自動車には自賠責保険を掛けておかなければいけないと法律で決められています。ただ、自賠責保険は、あくまでも最低限の補償のためのもので、金額には上限があります。ケガの治療が長引いたり、ケガが大きかったりすると、被害者に生じる損害額が自賠責保険の上限を超えてしまうことがあります。自賠責保険の上限を超えて損害が発生した場合にも、被害者への補償ができるように、多くの方が任意保険にも加入しています。

    人身事故が起きたとき、任意保険会社は、本来、自賠責保険の上限の枠内の損害については支払う義務を負っていないのですが、自賠責保険の上限の枠内の支払いについても、支払いをしてくれます。そして、いったん支払った金銭について、自賠責保険会社に事後的に請求し、自賠責保険の枠内の額について回収をしているのです。
    このように、任意保険会社が、自賠責保険分についても窓口となって被害者への支払いをすることを、「一括対応」とか「任意一括」と呼んでいます。
    任意保険会社が、事故直後から、病院へ治療費を支払ったり通院のための交通費を被害者に支払ったりするのは、この一括対応をしているからなのです。

  2. (2)被害者請求とは

    一方で、交通事故の被害者は、任意保険会社に対して、一括対応をしてもらうのではなく、自ら直接自賠責保険会社に対して保険金の請求をすることもできます。この被害者自らが自賠責保険会社に対して請求をすることを「被害者請求」といいます。この手続きは、自動車損害賠償保障法16条1項に定められていることから、「16条請求」といったりもします。

  3. (3)事前認定と被害者請求

    次に、「事前認定」について説明します。実は、自賠責保険から支払われる保険金は、被害者が負ったケガが事故によるものかとか、ケガをした被害者に大きな過失がなかったかとか、ケガによる後遺障害がどの程度かといった要素についての、自賠責自身による調査及び判断によって額が決まります。したがって、任意保険会社は、一括対応をするとき、これらの要素に対する自賠責の判断が分からないと、自賠責保険からいくら支払いがされるのかが分かりません。

    そこで、任意保険会社は、一括対応の支払いをする前に、自賠責保険から支払いがされることになるのかを、事前に損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所という機関に調査をしてもらって、支払いの可否を確認しています。この確認の手続きを「事前認定」と呼んでいます。つまり、「事前認定」とは、任意保険会社の一括対応の過程で、任意保険会社が行う自賠責損害調査事務所への自賠責保険金の支払いの可否を確認する手続きというわけです。

    被害者が被害者請求をしたときも、自賠責損害調査事務所は、調査をして支払いの可否を決めています。すなわち、被害者側からの請求に基づいて自賠責損害調査事務所での調査がされる「被害者請求」に対して、任意保険会社から自賠責損害調査事務所での調査を求める場合を「事前認定」と呼んでいるわけです。

    事前認定や被害者請求に基づく自賠責損害調査事務所での調査は、事故とケガとの因果関係や、被害者側の重過失の有無についてもされますが、とりわけ後遺障害の認定に際して意識されることが多いので、「事前認定」とか「被害者請求」といった言葉は、後遺障害の認定手続きのことを指して使われることが多いです。

2、被害者請求を選択すべき理由

事前認定でするか、被害者請求でするか、被害者はどちらも選択することができます。では、後遺障害の認定手続きに際して、事前認定と被害者請求のどちらを選択するのがいいのでしょうか。
実は、事前認定の場合と被害者請求の場合とでどちらが後遺障害の認定を受けている確率が高いかは公表されていませんので、私たちは本当の正解を知りません。
ですが、私たちは、後遺障害の申請は、被害者請求で行うべきだと考えています。それは、次のような理由からです。

  1. (1)事前認定と被害者請求の手続きの流れ

    後遺障害の申請手続とはどのようなものかというと、被害者が症状固定となるときに、主治医に後遺障害診断書という書式に症状などを書いてもらい、その他の必要書類とともに自賠責損害調査事務所に提出して、調査・審査してもらうというものです。

    事前認定によるときは、この後遺障害診断書は、主治医から直接任意保険会社に送られることが多いです。そして任意保険会社から、自賠責保険会社を通じて自賠責損害調査事務所に渡ることになります。そうすると、被害者は、主治医が書いた後遺障害診断書に目を通すことなく、後遺障害の認定手続が進んで行くのです。
    これに対して、被害者請求によるときは、後遺障害診断書をいったん被害者が受け取り、これを自賠責保険会社に送ることになります。このとき、被害者は、後遺障害診断書の記載内容をチェックすることができるのです。

  2. (2)大事なのは後遺障害診断書のチェック

    ほとんどの医師は、後遺障害診断書をきちんと書いてくれますが、記載に絶対にミスがないかと言うと、残念ながらミスも起こります。また、後遺障害診断書にはたくさん記載欄があるのですが、記載すべき欄に適切に書かれていないことがあります。これらが原因で、本来受けられる後遺障害の認定が受けられないというケースが少なからずあるのです。
    任意保険会社は、加害者側の立場の人間ですので、被害者がより高い等級認定を受けやすくするように、後遺障害診断書をチェックしてくれたりはしません。これが被害者請求であれば、自分のこととして後遺障害診断書の記載ミスや記載漏れをチェックし、ミスや漏れがあれば主治医に指摘して修正・追記してもらうなど、より適切な後遺障害診断書を作成することができるのです。
    これが、後遺障害の手続きを被害者請求で行うべき一番大きな理由です。

  3. (3)その他の被害者請求のメリット

    その他にも、後遺障害診断書を自賠責保険に提出する際に、被害者の症状をより詳細に記載した書面を添付したり、症状の程度をわかりやすくするための写真を撮ってそれを添付したり、後遺障害の申請をするときに工夫することができますので、被害者請求にはその点でもメリットがあります。
    さらに、任意保険会社は加害者側の立場なので、そのような相手方当事者に大切な手続きを任せる事前認定に心理的な抵抗を感じる方もいるでしょうが、自分で行う被害者請求であれば、事前認定によるよりも、結果について納得しやすいということもあるかもしれません。

  4. (4)被害者請求をすることのデメリット

    被害者請求も良いことばかりではありません。何より被害者請求は面倒です。被害者請求の場合、準備しなければならない書類がたくさんあります。

    具体的には、①自動車損害賠償責任保険支払請求書兼支払指図書、②交通事故証明書、③事故発生状況報告書、④診断書、⑤診療報酬明細書、⑥後遺障害診断書、⑦レントゲンやMRIの画像です。

    必要書類を調べること自体大変ですし、これらをすべて取りそろえたり、必要事項を記入したりするのも一苦労です。提出先も被害者が自分で調べる必要があります。他方で、事前認定の場合、任意保険会社に任せておけばよく、被害者側で準備することは、主治医に診断書の作成を依頼する以外ほとんどありません。

    また、後遺障害診断書を自分でチェックできるといっても、多くの被害者は後遺障害の申請をすることは初めての経験で、どこをどうチェックすればいいのか分からないことがほとんどでしょう。

3、被害者請求のとき弁護士にできること

そんなとき、役に立つのが弁護士です。弁護士に依頼して、被害者自身に代わって、弁護士にその手続きをしてもらうのです。もちろん、すべての準備を弁護士がしてくれるわけではなく、被害者自身でしないといけないこともあります。委任状を記載し、印鑑証明書も入手する必要があるなど、一切手間がかからないわけではありません。ですが、どんな書類が必要なのか指示を受けることができ、弁護士側で記載できるものは弁護士側で記載し、任意保険会社から開示を受けなければならない診療報酬明細書を弁護士に取り付けてもらうなど、多くの面倒なことを弁護士に任せることができます。

そして、大事な後遺障害診断書のチェックも弁護士にしてもらうことができます。被害者側の交通事故事件を多く扱っている弁護士であれば、主治医が記載した後遺障害診断書のどこをチェックすればいいか、また、主治医に修正や追記をしてもらうべき事項は何かを経験上知っているのです。

こうして、弁護士がチェックをし、必要な修正や追記をした後遺障害診断書を提出できたことで、適切な後遺障害等級の認定を受けることができたケースを、私たちは数多く見てきました。ですので、私たちは、後遺障害の手続きを事前認定よりも被害者請求ですべきだと考えますし、弁護士がお手伝いすることで少しでも良い解決に近づけると考えているのです。

4、弁護士への依頼のタイミング

弁護士に依頼するタイミングですが、これは後遺障害の認定の手続きをするとき、つまり、治療が終了する症状固定時でも構いません。ですが、弁護士が被害者の症状や治療状況を詳しく把握できているほど、後遺障害診断書のチェックも充実したものになります。そのため、症状固定がまだ先でも、早めに弁護士に相談・依頼しておく方が望ましいでしょう。

5、弁護士費用はいくらかかる?

弁護士に依頼するとき、心配なのは費用です。交通事故事件の場合、初回の相談は無料で対応してくれる弁護士は多いので、相談料はそれほど心配する必要がありません。ですが、事件を依頼することになったときには着手金がかかり、事件が終了したときには報酬金が発生することになるので、依頼前にその弁護士にいくら払わないといけないのか、きちんと把握しておきましょう。そのうえで、弁護士に依頼することのメリットと、弁護士に支払う費用の負担とを慎重に検討し、依頼するかどうかを決めてください。

交通事故事件の場合は、着手金を無料で対応している弁護士も多くいます。着手金を無料にしているのは、交通事故事件の場合、解決までの見通しが立てやすいことが多く、また、相手方には大手の保険会社がついていることがほとんどですので、報酬の取りっぱぐれの心配が極めて少ないことが理由になっているのでしょう。さらに、被害者は事故でケガをし、仕事もままならず金銭に困っている方も多くいます。そんな方にも、費用が払えないことが理由で弁護士への依頼をちゅうちょしないようにし、弁護士が介入することで少しでもいい解決に導けるようにしたいという思いもあります。

事件が解決したときに払う報酬は、弁護士が慰謝料などの賠償金を相手方の任意保険会社からいったん受け取り、その賠償金から差し引くことで支払われることになります。つまり、被害者の手元には、支払われた賠償金から弁護士報酬を差し引いた金額が残ることになるのです。

近年の交通事故事件の弁護士報酬は、着手金が無料で、報酬金は相手方から回収した額の10%~15%くらいに固定の20万円程度という事務所が多いようです。各法律事務所のホームページでも確認することができます。

6、弁護士費用特約を確認してください

被害者が自身で加入している自動車保険などに、弁護士費用特約という特約が付いていることがあります。この特約に加入していれば、300万円まで保険で弁護士費用が賄われることが多いでしょう。そうすると、弁護士費用の心配がほとんど要らなくなりますので、弁護士への依頼を検討するときは、弁護士費用特約に加入しているかを忘れずに確認してください。

7、まとめ

今回は、被害者請求とは何か、弁護士に被害者請求を依頼することのメリットは何かを説明しました。経験豊富な弁護士に被害者請求を任せるメリットは大きいということを知っていただけたと思います。治療をしても残ってしまった症状を適切に評価してもらい、妥当な後遺障害等級の認定を受けられるよう、弁護士への相談と依頼をおすすめします。
交通事故に遭われてしまい、お困りの場合はベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスまでご相談ください。弁護士があなたの力になります。

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