通勤中の労災で様式16号の5の提出が必要? 手続きの場所を解説
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神奈川県労働局の資料によると、神奈川県内で発生した労災による死傷者は平成21年から平成29年までは6500人前後で推移していましたが、平成30年以降は増加の一途をたどり、令和3年には8668人と平成5年以降で最多の人数になりました(休業4日以上の死傷者に限る)。
労災による補償は勤務中のケガに限られず、通勤中の事故によるケガについても「通勤災害」として補償を受けることができます。労災の申請と同じように、通勤災害についても、労災指定病院を受診すれば病院が申請を進めてくれます。一方で、労災指定病院以外の医療機関を受診した場合には、自分で書類を作成して労働基準監督署に提出する必要があります。
本コラムでは、通勤災害の申請に必要な書類である「様式16号の5」について、受け取れる場所や提出・記入の方法などを、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。
1、様式第16号の5は通勤災害で利用する
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(1)療養給付たる療養の費用請求書とは
労災申請に必要な書類は、請求する保険給付の種類ごとに様式が異なっており、それぞれの保険給付に対応した様式を用いる必要があります。
通勤災害で負ったケガの治療のために労災指定病院以外の医療機関を受診して、それにかかった治療費・入院費・通院費など療養費用の補償を請求するときには、「療養給付たる療養の費用請求書」(様式第16号の5)を作成しなければなりません。
様式第16号の5は、厚生労働省のWebページからダウンロードするか、労働基準監督署で入手することができます(これ以外の様式も、同様の方法で入手可能です)。 -
(2)他の様式第16との違い
療養費用の補償を労災申請する場合、第16号の5を利用することになります。
また、ケガのせいで働けなくなったときの休業給付、後遺障害が残ったときの障害給付、介護が必要になったときの介護給付などの補償を申請する場合には、他の様式第16を利用する必要があります。
代表的な保険給付の種類と給付の条件、それぞれに必要な様式第16の種類は、以下の通りです。
保険給付 給付の条件 必要な様式 休業給付 通勤災害による傷病の療養のため、労働することができず、賃金を受けられないとき 休業給付支給請求書(様式第16号の6) 障害給付 通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に、障害等級第1級から第14級までに該当する障害が残ったとき 障害給付支給請求書 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 支給申請書 通勤災害用(様式第16号の7) 介護給付 障害により、常時/随時介護が必要なときなど 介護補償給付・介護給付支給請求書(様式第16号2の2)
なお、同じ通勤災害によるケガでも、労災指定病院で療養費用の補償を請求する場合には「療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用」(様式第16号の3)を利用することになります。
2、労災の申請で様式第16号の5が必要となるケース
労災の申請で様式第16号の5が必要となるのは、通勤災害でケガをして、労災指定病院以外の医療機関を受診したときです。
ただし、様式第16号の5のなかにも複数の種類があり、受診する医療機関の種類によって、利用しなければならない様式が異なる点に注意してください。
- 労災指定病院以外の病院を受診したとき
「療養給付たる療養の費用請求書 通勤災害用」(様式第16号の5(1)) - 薬局から薬剤の支給を受けたとき
「療養給付たる療養の費用請求書(薬局)通勤災害用」(様式第16号の5(2)) - 柔道整復師から手当を受けたとき
「療養給付たる療養の費用請求書(柔整)通勤災害用」(様式第16号の5(3)) - はり師・きゅう師、あん摩マッサージ指圧師から手当を受けたとき
「療養給付たる療養の費用請求書(はり・きゅう)通勤災害用」(様式第16号の5(4)) - 訪問看護事業者から訪問看護を受けたとき
「療養給付たる療養の費用請求書(訪看)通勤災害用」(様式第16号の5(5))
3、様式第16号の5の書き方と提出先
労災の申請書は、従業員本人が作成し、必要書類を添付して労働基準監督署に提出しなければなりません。
会社が申請手続きを代行してくれることもありますが、代行の義務が会社にあるわけではなく、あくまでもサービスとして行われるものだと認識してください。
様式第16号の5の場合には、次の項目を記入する必要があります。
- 労働保険番号
勤務している会社の労働保険番号を記入してください。
なお、下請けや派遣で働いている場合には、元請け・派遣元の会社の労働保険番号を記入する必要があります。 - 通常の通勤経路・方法・所要時間
自宅から会社までの通勤経路、移動の方法、所要時間などを記入してください。
スペースが不足する場合などには、地図を貼り付けてそこに書き込んだり、別紙に記載してそれを添付したりすることも認められています。 - 災害が発生した日時・場所
災害(事故)が発生した日時と場所を、具体的に記入してください。 - 災害の原因・発生状況
どのような場所で、どのような状況で事故が発生したのかを、わかりやすく、具体的に記入してください。
事故でケガをした日と、初めて病院を受診した日が異なる場合には、その理由についてもここに記入する必要があります。 - 災害の現認者の住所・氏名
事故の発生を目撃した人がいれば、その人の住所と氏名を記入してください。
目撃者がいない場合には、事故について最初に報告した社員の職名と氏名を記入しましょう。 - 事業主の証明
従業員が記入した内容に相違がないことについて、会社に証明してもらう必要があります。
労災隠しなどで会社が事業主証明を拒否した場合でも、その事情を記載した上申書を添付すれば、労災申請を行うことが可能であるため、事業主の証明を受けられないときでも諦めないようにしてください。 - 医師等の証明
療養した期間、ケガをした部位、傷病名などについて、医師等に証明してもらいましょう。
4、労災に遭ったとき弁護士に相談したほうがよいケース
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(1)事故の責任が会社にあるケース
労災からでは、治療にかかった費用や、ケガで働けなくなったときの休業給付、後遺障害が残ったときの障害給付などの補償を受けることができます。
しかし、精神的苦痛に対する慰謝料などは、労災保険に請求することはできません。
会社に安全配慮義務違反や使用者責任などが認められる場合には、会社に対して慰謝料やその他の損害賠償を請求することができます。
たとえば、以下のような事例では、会社に対する責任を問うことができるのです。
- 会社の安全管理体制がずさんで事故に遭った
- 同僚の行為が原因でケガをした
- 労災でケガをしたのに会社がきちんと対応しない
弁護士に依頼すれば、慰謝料や損害賠償の金額を適切に計算することができます。
また、労働者個人が会社に対して請求を行っても、会社から相手にされなかったり不利な条件での示談を成立させられたりするおそれがありますが、弁護士が示談交渉を代行することで、会社と対等な立場で交渉することができるようになります。 -
(2)後遺障害が残るおそれがあるケース
労災によって後遺障害が残った場合には、障害給付の補償を受けることができます。
後遺障害の等級は、症状固定時の状況をふまえて労働基準監督署が認定します。
そして、給付額は、認定された等級によって大きく異なります。
また、第1級から第7級までの認定を受けられた場合には、障害補償年金を受け取ることができるようにもなります。
そのため、自身が負った障害の程度に見合った適切な等級が認定されることは、被災された労働者にとっては非常に重要な問題となるのです。
弁護士に相談すれば、後遺障害等級の申請についてもサポートを受けられます。
提出する書類の内容についてアドバイスを受けられるほか、提出の手続きを代行させて自身の負担を軽減して、治療やリハビリに専念することも可能になります。
5、まとめ
労災申請には、時効が存在します。
たとえば様式第16号の5を利用して療養費用の補償を労災申請する場合には、療養に要する費用の支出が具体的に確定した日の翌日から2年で消滅時効となるのです。
時効を避けるためにも、仕事中や通勤中にケガをした場合には、できるだけ早めに労災申請を行って補償を受け取るようにしましょう。
もし労働災害や通勤災害に遭ってしまったら、速やかに補償を受け取るために、弁護士に相談してください。
また、後遺障害等級の認定を申請する際や、会社の責任を追及して慰謝料などの損害賠償を請求する場合にも、弁護士は労働者の心強い味方となります。
労災の被害に遭われた方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています