職場で仕事中にケンカをしてケガを負った! 労災は適用される?
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神奈川労働局が公表している統計資料によると、令和3年に神奈川労働局管内で発生した労災件数は8668件でした。このうち藤沢市を管轄する藤沢労働基準監督署では、721件の労災が生じています。
仕事中にケガをしてしまった場合には、労働基準監督署長による労災認定を受けることによって、労災保険から各種補償が支払われます。労災の対象となるケガとしては、高所からの転落によるケガや機械に挟まれたことによるケガなどが代表的なものですが、同僚とケンカをしてケガをしてしまった場合にも労災が認定される可能性があります。
本コラムでは、仕事中にケンカをしてケガをした場合における労災適用の有無について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。
1、職場のケンカで労災認定は受けられるのか
まず、労災が認定される基本的な要件と、ケンカでのケガに労災がされるのかについて説明します。
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(1)労災認定の要件
仕事中のケガで労災認定を受けるためには「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件を満たす必要があります。
- ① 業務遂行性
業務遂行性とは「労働者が負ったケガが業務中に生じたものであるかどうか」という基準です。
労働者が事業場内で業務に従事している場合には、当然、業務遂行性が認められます。
また、休憩時間などで業務に従事していない場合であっても、事業場内で行動をしている場合には、事業主の支配、管理下にあるといえますので、業務遂行性が認められるのです。
さらに、出張など事業主の管理下を離れて業務に従事している場合でも事業主の支配下にあることには変わりないため、業務遂行性が認められます。 - ② 業務起因性
業務起因性とは、(業務遂行性が認められることは前提として)「労働者が負ったケガが業務に起因して生じたものであるかどうか」という基準です。
労働者が事業場内で業務している場合には、事業場内の施設や設備の管理状況が原因となってケガが生じたと考えられますので、特別な事情がない限りは、原則として業務起因性が認められます。
また、出張など事業主の管理下を離れて業務に従事している場合でも、事業主の命令を受けて仕事をしていますので特段の事情がない限り、業務起因性は認められるでしょう。
しかし、休憩時間などで業務に従事していない場合には、私的な行為によって発生したケガとして業務起因性が否定されるケースもそれなりに出てくるでしょう。
- ① 業務遂行性
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(2)ケンカで労災認定を受けることができるケース・できないケース
以下では、労災認定を受けることができるケースとできないケースについて、それぞれ解説します。
① ケンカで労災認定を受けることができるケース
ケンカで労災認定を受けることができるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。- 事業所内での仕事中に同僚や上司とケンカをしたケース
- 業務時間中にクレーム対応をしていた客とケンカをしたケース
- 仕事中に同僚同士のケンカに巻き込まれたケース
ケンカで労災認定を受けることができるかどうかを判断する際にも、業務遂行性と業務起因性の2つの要件から検討されることになります。
ケンカが生じたのが事業所内で業務時間中であった場合には、業務遂行性が認められます。また、上司や同僚とのトラブルや客とのトラブルについても、まったく業務と関係のない私的怨恨(えんこん)に基づいてなされたものと評価されない限りは、業務に内在する危険が現実化したものと評価できるため、業務起因性も認められることが多いでしょう。
② ケンカで労災認定を受けることができないケース
ケンカで労災認定が受けられないないケースとしては、以下のようなものが挙げられます。- 帰宅途中に酔ってケンカをしたケース
- 過度な挑発行為によってケンカが引き起こされたケース
- 休憩時間中に私的なことで口論になってケンカをしたケース
判例でも、大工のケンカで顔面や頭部を殴られ死亡したケースで、業務中のやり取りから生じたケンカであることは認めつつも、挑発行為によってケンカが引き起こされている点を重視して、労災認定を否定したものもあります(最高裁昭和49年9月2日判決)。
ケンカによって負ったケガに労災が認定されるかどうかは、「業務に内在する危険が現実化したものか」という点がポイントになるのです。
2、労災と認定するのは会社?
以下では、労災が誰によって認定されるのかについて解説します。
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(1)労災認定をするのは労働基準監督署長
労働者災害補償法では、労災認定をするのは労働基準監督署長であるとされています。
つまり、労災かどうかを判断するのは、会社でも労働者でもなく、労働基準監督署長ということになるのです。
会社の経営者の中には、この点を誤解している方がおられます。
そのため、労働者から労災申請をお願いされたとしても「この程度では労災にあたらない」などと勝手に判断して、労災申請を行ってくれないケースがあるのです。
悪質な場合には「労災隠し」とみなされて、会社には50万円以下の罰金が科されることもあります。 -
(2)会社が申請を拒否した場合は労働者自身が申請できる
労災によってケガをしてしまった場合には、労働者の負担を軽減するために、会社が労働者の代理で労災申請の手続きを行うのが一般的です。
そのため、仕事中や通勤中にケガをしてしまったという場合には、まずは、会社の担当者に相談をして、労災認定の手続きを進めていってもらいましょう。
しかし、会社によっては、労災事故が生じたことによって、労災保険料率がアップすること、企業のイメージの低下につながることなどのデメリットが生じることから、労災申請を拒否することがあります。
このような場合には、労働者自身で労災申請をすることができます。
管轄する労働基準監督署と相談をしながら、労災申請の手続きを進めていきましょう。
3、会社やケンカ相手に慰謝料を請求できるのか
以下では、労災による補償とは別に、ケンカをした相手や会社に対して損害賠償を請求することができるのかどうかについて解説します。
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(1)ケンカ相手に対する損害賠償請求
ケンカによってケガをさせられた場合には、民法上の不法行為(民法709条)に該当するため、ケンカ相手に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。
その際には、以下のような損害を請求することが可能です。- 治療費
- 通院交通費
- 休業損害
- 慰謝料(傷害慰謝料、後遺障害慰謝料)
- 逸失利益
ただし、被害者の側にもケンカが生じた原因がある場合には、過失相殺によって損害額の一部が控除されることもあります。
また、相手にもケガをさせてしまった場合には、ケンカ相手からも損害賠償請求をされる可能性もある点に注意してください。 -
(2)会社に対する損害賠償請求
会社には、労働契約上の義務として、労働者の安全に配慮する義務があります。
このような義務を「安全配慮義務」といい、会社がケンカを防止するための必要な措置を怠ったといえる場合には、会社に対しても損害賠償請求することが可能です。
ただし、突発的に生じたケンカや私的な事情によって生じたケンカについては、会社の責任が認められない可能性もあります。
会社の責任が認められる事例としては、本来の業務から生じるケンカ、上司からのパワハラ、客からのクレームなどでケガをした場合などが考えられます。
4、労災問題について弁護士に相談するべきケース
労災について以下のような問題が発生している場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)労災認定を受けられなかったケース
労働基準監督署による労災認定を受けられなかった場合には、労働災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができます。
また、審査請求が棄却された場合には、さらに労働保険審査会に再審査請求を行うか、裁判所に取消訴訟を提起することができます。
このように、労災保険給付に関する決定に不服がある場合には、さまざまな不服申し立ての手段が準備されていますので、これらの手続きによって認定が覆る可能性があります。
ただし、認定を覆してもらうためには、当初の認定が間違っていることを証拠に基づいて主張立証していく必要があるため、専門家によるサポートが必要になります。
労働基準監督署の判断に不服がある場合には、まずは弁護士に相談しましょう。 -
(2)会社に損害賠償請求をする場合
労災認定を受けることができたからといって、必ずしも、会社に対する損害賠償請求が認められるわけではありません。
損害賠償を請求する場合には、被災労働者の側において、会社に安全配慮義務違反などがあったことを主張・立証していかなければならないのです。
損害賠償請求においても、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。
また、交渉によって解決できない場合には、裁判を起こす必要がありますが、その際にも弁護士に依頼することが必要になるでしょう。
労災保険給付だけでは、ケガに対する補償が十分でないことが多々あります。
労災によってケガをした場合には、損害賠償を請求するかどうかを検討するためにも、まずは弁護士に相談しましょう。
5、まとめ
職場でのケンカによってケガをしてしまった場合には、業務遂行性と業務起因性の要件を満たしていれば、労災認定を受けることができます。
ただし、労災による補償だけでは不十分な場合も多いため、ケンカ相手や会社に対する損害賠償の請求も検討しましょう。
労災問題についてお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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