債権譲渡とは? 債権回収のメリットや注意点を弁護士が解説

2021年03月30日
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債権譲渡とは? 債権回収のメリットや注意点を弁護士が解説

東京商工リサーチ横浜支店によると、2020年4~9月の神奈川県内の倒産件数(負債額1000万円以上)は前年同期比20%減の227件ということでした。同社によると今後は新型コロナの影響もあり、倒産の増加が懸念されるということです。経営環境が冷え込む中、資金繰りに苦しむ企業から、弁済のかわりに債権譲渡を提案される場合もあります。債権譲渡は、債権回収の有効な手段である一方で、さまざまなリスクもはらんでいます。

債権譲渡を提案された場合、企業としてはどう対応すればよいのか、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が詳しく説明します。

1、債権譲渡とは?

  1. (1)債権譲渡とは

    債権譲渡とは、自分の取引相手(債務者)が第三者(第三債務者)に対して持っている債権を譲渡してもらい、その取引相手の代わりにその第三者からお金を回収する権利を得る制度です。
    一般的には、企業が債権を回収する方法として用いられます

    たとえば、自社がA社に対して商品を売ったが代金が未回収で、A社に対する売掛金を持っていると仮定しましょう。
    この場合のA社は自社にとっての債務者です。
    そして、A社はさらに自分の取引先のB社に対してお金を貸しつけていて、貸金債権を持っているとします。

    自社は、A社から売掛金を回収しなければなりませんが、A社が資金不足の時には、A社が払いたくても払えないため、直接回収ができません。
    このような場合に、A社がB社に対して有している貸金債権を譲り受けると、自社はA社に代わってB社に対して取り立てを行うことができる、これが債権譲渡の典型的なパターンです。
    この場合のB社を第三債務者と呼びます。

  2. (2)債権を担保として活用する

    このように、債権を実際に回収する局面になった後で債務者から債権を譲渡してもらう方法もありますが、債務不履行になった時に債務者の持つ債権をすぐ渡してもらえるように、事前に設定しておくこともできます。
    つまり、最初から債務者がもっている債権を担保にして契約するのです。

    債権を担保にする方法は、質権を用いる方法と譲渡担保制度を用いる方法があり、どちらも有効とされています。

  3. (3)譲渡する側から見た債権譲渡制度

    債権を譲渡する側からすれば、自分が取引相手に債務を弁済できなくなった時に、自分が第三者に対して持っている債権を譲渡すれば、その債権の金額の範囲では実際に金銭を支払うことなく債務を弁済したことになります。
    これは、資金繰りが苦しい時には大きな助けとなります

    また、取引相手から十分に信用を得ていないときでも、自社が他者に対して債権を持っていれば、それを債権譲渡担保として設定することで、取引相手と新たに契約をとることができる場合もあります。

2、債権回収における債権譲渡のメリット

債権譲渡は債権回収に頻繁に用いられている制度です。改めて、そのメリットを整理しておきましょう。

  1. (1)債権回収の方法が増える

    債権譲渡を用いる一番のメリットは、債権回収の選択肢を増やせることです
    そもそも、債権を回収すること自体がそう簡単なことではありません。
    取引先がいつも資金を潤沢に持っているとは限りません。
    ビジネスにはリスクがつきものです。
    取引先が資金繰りに苦しむようになると、支払いを督促したり、時には内容証明郵便で請求書を送ったりすることにもなります。

    それでも相手が支払ってこなければ訴訟を起こし、最終的には強制執行までしなければなりません。
    そのためには、大変な手間と費用がかかってしまいますし、このようにいくら手間と費用をかけても、結局のところ、相手に資産がなければ金銭を手に入れることができず、すべての苦労は水の泡です。
    債権譲渡を受ければ、取引先相手以外の第三債務者から債権を回収するという選択肢が増えることになります
    その点が、一番のメリットでしょう。

  2. (2)第三債務者からいち早く回収できる

    取引相手の資金繰りが苦しくなると、支払いを待ってほしいと言われることが増えていきます。
    この、支払いを待ってほしいという依頼の裏には、「もうすぐ第三債務者から入金があるはずだから、それまで待ってほしい」という意味合いが込められることが結構あります。

    しかし、実際に取引相手に対して第三債務者からの支払いがあったとしても、取引相手が、そのお金をすぐに自社への弁済に充ててくれるとは限りません。
    資金繰りに苦しむ会社は、多くの場合、たくさんの債権者からの取り立てを受けています。
    そうすると、第三債務者からの支払いを、もっと取り立てのきつい業者に回してしまう可能性が十分にあります。

    そのような場合は、のんきに支払いを待っているよりは、取引相手が持っている債権を譲渡してもらい、こちらが直接第三債務者に請求するほうが確実です
    取引先に取り立てをするよりも、スムーズかつスピーディーに回収できる見込みが立ちます。

  3. (3)取引先が破産しても担保を取っていれば債権から支払いを受けられる

    取引先の倒産騒ぎは、経営者にとってもっとも大きなリスクです。
    実際、取引先が破産した場合、支払いを受けることは全く期待できません。相手に破産されたら終わり、というのがビジネスの基本的なルールです

    しかし、事前に取引先の債権を債権譲渡担保にとっていれば、相手が破産した場合でも、自社から第三債務者に直接債権を回収することが可能なのです。これは、取引先の破産という最大のリスクを回避できる大きなメリットです。(ただし取引相手の破産申立が迫っているような危機的な段階で債権譲渡を行わせると、後で否認される可能性もありますので、注意は必要です。)

3、債権譲渡を行う流れ

では、実際に債権譲渡を行う場合の流れを確認していきましょう。

  1. (1)債権譲渡契約の締結

    まず譲渡人(自社の取引相手)と譲受人(自社)同士が同意の上で、債権譲渡契約を結びます。そのうえで、しっかりとした契約書を作成しましょう

  2. (2)第三債務者への対抗要件の取得

    まず、債権譲渡契約は原則として譲渡人と譲受人の間でだけ有効だということに注意する必要があります。
    いくら譲渡人と譲受人がしっかりとした債権譲渡契約を締結しても、それだけでは第三債務者(自社の取引相手の債務者)の知ったことではありませんから、第三債務者への取り立てはできません。
    譲受人が確実に債権を回収するためには、第三債務者への対抗要件を取得することが必要です。

    債務者への対抗要件とは、譲受人が第三債務者に対して、自分こそが正しい債権者であって取り立て権限を持っていると主張するために必要な条件です。
    第三債務者の立場からすれば、急に知らない会社から取り立ての請求書が来たら困惑します。
    いったい誰に弁済したらよいのかと迷うのが当然です。

    その困惑を解消し、きちんと自社に払ってもらうために必要な手続きが第三債務者への対抗要件具備というわけです。第三債務者への対抗要件を備える方法は2つあります。

    ● 第三債務者からの承諾
    第三債務者から債権譲渡の承諾を得ることで、第三債務者への対抗要件を取得することができます。
    しかし現実に第三債務者が承諾してくれる保証はないので、必ずしも現実的ではありません。

    ● 債権譲渡通知の郵送
    実務上は、債権譲渡における第三債務者への対抗要件を債権譲渡通知によって備えるのが一般的です
    具体的には、債権を譲渡したことを譲渡人から第三債務者に通知するのです。この通知は普通郵便などでも良いのですが、次の(3)で触れる理由から、内容証明郵便を使うのが一般的です。承諾と違って、第三債務者に一方的に通知するだけで十分です。ただし通知をするのはあくまで譲渡人(自社の取引相手)であって、譲受人(自社)が通知するわけではありません。第三債務者が本来お金を弁済しなければならないのは譲渡人の方ですから、その譲渡人から通知しなければならないわけです。

  3. (3)第三者への対抗要件の取得

    第三債務者以外の第三者への対抗要件を取得することも必要です。
    なぜなら、債権は目に見えない権利なので、支払いに困った取引相手が、自社以外の債権者にも同じように債権譲渡を提案している可能性があるからです。
    このとき、いったい誰が第三債務者に対して取り立てをする正しい権利があるのかを証明するのが、第三者への対抗要件の意味です。第三者への対抗要件を取得する方法は、次の二つです。

    ● 内容証明郵便による第三債務者への通知
    第三債務者への債権譲渡の通知を、普通郵便などではなく内容証明郵便で行うと、第三債務者への対抗要件と、第三者への対抗要件を同時に満たせることになります。

    ● 債権譲渡登記をする方法
    債権譲渡登記という手続きでも、債権譲渡の対抗要件を取得することが可能です。
    動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律に規定されています。

    取引先が法人の場合に限られますが、債権譲渡の事実を法務局で登記することで第三者との関係絵で対抗要件を得られる仕組みです。
    具体的には、登記官に対して債権譲渡の登記申請を行います。

    ただし、債権譲渡登記制度は担保目的で利用されることが多く、現実の債権回収の場面では、内容証明郵便を使う方が迅速で現実的でしょう

4、債権譲渡を債権回収に用いる際の注意点

債権譲渡を行う上で、譲受人が注意すべき点についてまとめておきます。

  1. (1)債権が二重に譲渡されていないかの確認

    債権が、自社以外にも譲渡されていないかを必ず確認しましょう。
    取引相手が自社以外にも債権を譲渡している可能性は否定できません。
    そして、その場合は、先に第三者対抗要件(一般的には、先ほど述べたとおり内容証明郵便による通知の送付)を取得したほうが優先されるというルールがあります。
    自社への譲渡について他社よりも早い日付を獲得できるかが勝負の分かれ目です。

  2. (2)債権譲渡禁止特約がないか

    取引先と第三債務者との間で、債権譲渡禁止特約が交わされていないかも確認しましょう。
    債権譲渡禁止特約は、文字通り、債権の譲渡を禁止する約ですから、自社が第三債務者に取り立てを行う際に障害となってしまいます。

  3. (3)弁済済みの債権ではないか

    譲り受ける債権が、実は弁済済みの債権でないか確認することも必要です。当然のことながら、弁済済みの債権ならば債権自体が消滅してしまっているので、取り立てはできません。

  4. (4)時効がきていないか

    弁済は未了であっても、長い間ほったらかしにされた債権を譲り受けてしまうと、すでに時効が来ていて回収できないという場合もあります。
    第三債務者から時効による消滅を主張されると、その債権は回収できませんから、譲り受ける前に債権の発生時期やその後の取り立て状況など、時効に関する事項をしっかり確認してください

  5. (5)債権譲渡を弁護士に相談するメリット

    債権譲渡にはさまざまな注意事項があります。
    また、2020年4月には改正民法が施行され、債権譲渡に関する規定にも変更がありました。
    事前に弁護士に相談することで、改正後の債権譲渡手続きについて正しい情報が得られます。また、そのほかにも以下のようなメリットが得られます。

    • 債権譲渡の契約書をチェックまたは作成してもらえる
    • 債権譲渡の際の具体的な注意点についてアドバイスしてもらえる
    • 譲り受けても大丈夫な債権なのか実際に相談できる
    • 債権譲渡にあたって法的に必要な手続きを依頼できる
    • 債権譲渡後の、第三債務者への取り立て方法を相談または依頼できる

5、まとめ

債権譲渡は、債権を回収するための有効な手法で、ビジネスをしていくうえでぜひ活用していきたいものです。しかし、債権譲渡には複雑な手続きが必要で、法的なリスクも伴います。債権譲渡を取引先から提案された場合には、ぜひ事前に弁護士にご相談ください。

ベリーベスト法律事務所では、改正法に応じた債権譲渡に関する豊富な知識をもった弁護士が多数在籍しています。債権譲渡についてお悩みの場合は、当事務所 湘南藤沢オフィスまで、お気軽にご相談ください。

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