借地に建つ家を相続した場合の流れと注意点|処分方法も解説

2024年04月16日
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借地に建つ家を相続した場合の流れと注意点|処分方法も解説

敷地の所有関係に関する統計によると、敷地が所有地である世帯は2904万世帯で全体の58.5%、一般の借地である世帯は117万世帯で全体の2.4%、定期借地権などである世帯が12万世帯で全体の0.2%となっています。所有地に建物を建てる世帯が圧倒的に多いですが、借地権を利用する世帯も一定数いることがわかります。

借地権は、建物を所有する目的で土地を借りる権利ですので、借地上に建物を建てて生活しているという方もいると思います。借地上の建物の所有者である親が亡くなった場合、借地に立つ家や借地権はどうなってしまうのでしょうか。借地上の建物を相続する場合には、いくつか注意すべきポイントがありますので、しっかりと押さえておくことが大切です。

今回は、借地に建つ家を相続した場合の流れと注意点について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。

1、借地に建つ家は相続の対象となるのか

借地に建つ家の所有者が亡くなった場合、借地に建つ家は、相続の対象になるのでしょうか。

  1. (1)借地に建つ家も相続の対象になる

    他人の土地上の建物ということで、借地に建つ家も他人のものと勘違いしている方もいます。しかし、借地上に建てた家は、借地人自身が建てた家になりますので、借地人の所有物です。
    自己の所有する土地に建てた建物と同様に、借地に建つ家も被相続人の財産に含まれますので、相続の対象になります。ただし、後述するように、借地に建つ家を相続する場合には、借地権付きの建物という特性上、さまざまな制約を受ける可能性がありますので注意が必要です

  2. (2)借地権も相続の対象に含まれる

    借地権とは、建物を所有する目的で土地を借りる権利をいいます。自己所有地であれば、建物を建てるのも自由に行うことができますが、他人の土地上に建物を建てるためには、地主との間で、借地契約を締結し、借地権を設定する必要があります。
    このような借地権も、財産的価値のある権利になりますので、借地人が死亡した場合には、相続の対象に含まれることになります。借地権を相続した相続人は、地主と借地人(被相続人)との間の借地契約を承継し、引き続き借地を利用することが可能です。

2、相続する場合にすべきこと

借地に建つ家を相続する場合には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。

  1. (1)借地権の内容を確認

    被相続人が亡くなり、借地に建つ家を相続する場合、まずは、借地権の内容を確認する必要があります。特に、確認すべき項目としては、以下のとおりです

    • 借地契約の種類(旧借地権、普通借地権、定期借地権)
    • 借地契約の期間
    • 地代
    • 建物買取請求権の有無
    • 更新料の定め


    借地権の内容を確認することは、借地に建つ家を相続するかどうかを判断する上で、重要な事項となりますので、借地契約書などによりしっかりと確認するようにしましょう。

    なお、借地権が登記されている場合には、土地の登記事項証明書にその旨が記載されていますので、借地契約書が見つからないときは、土地の登記事項証明書を確認してみるとよいでしょう。

  2. (2)相続人による遺産分割協議

    借地権も相続財産に含まれますので、借地権を相続するためには、相続人による遺産分割協議が必要になります。
    遺産分割協議では、誰が借地権付き建物を相続するのかを、相続人全員で話し合って決めていきます。相続人による話し合いがまとまったら、その内容を遺産分割協議書に記載するようにしましょう

    なお、相続人による話し合いでは解決できない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停または遺産分割審判の申し立てが必要です。

  3. (3)地主に連絡

    借地権を相続する際には、地主の承諾は不要ですので、地主との間で新たな借地契約を締結するまでもなく、当然に従前の契約が引き継がれることになります。相続とは亡くなった被相続人の契約上の地位を受け継ぐことだからです。
    ただし、承諾は不要とはいっても、今後、借地権を相続した相続人から地主に対して地代を支払っていく必要がありますし、地主としても誰が新たな借地人になるのかは重大な関心事といえます。そのため、今後も地主と円満なお付き合いを続けていくためにも、また余計なトラブルを防ぐためにも、借地人が死亡して相続が開始したこと、誰が借地権を相続にしたのかなどの基本的な情報は、地主に連絡をしておいた方がよいでしょう

  4. (4)法定相続人以外への遺贈だと地主の許可が必要

    借地権を相続する場合には、地主の承諾は不要ですが、被相続人が遺言により法定相続人以外の第三者に借地権を遺贈する場合には、地主の承諾が必要になります。相続人ではない第三者は、被相続人の地位を当然に引き継ぐわけではないからです
    そのため、借地権の遺贈を受けた方は、地主との協議を行い、遺贈による借地権の譲渡の承諾を求めていくようにしましょう。その際には、地主から譲渡承諾料というお金を請求されることがあります。基本的には支払う必要のあるお金になりますが、相場を超える譲渡承諾料を請求されていないかどうかはしっかりとチェックすることが大切です。

  5. (5)相続登記

    遺産分割協議により、誰が借地に建つ家を相続するのかが決まったら、被相続人名義から相続人名義へと建物の名義変更の手続きを行います。このような手続きを「相続登記」といいます。
    令和6年4月1日から相続登記が義務化されますので、忘れずに手続きを行うようにしましょう

3、処分したいときに検討できる5つの方法

借地に建つ家を処分したいと思った場合には、以下のような5つの方法を検討してみましょう。

  1. (1)地主に買い取ってもらう

    借地に建つ家を処分するもっとも簡単な方法は、地主に買い取ってもらう方法です。
    地主に家を買い取ってもらうことができれば、借地権は消滅しますので、借地契約をめぐってトラブルになる心配もありません。また、地主自身が借地権付き建物を取得する場合には、地主への譲渡承諾料も不要ですので、無駄な出費を抑えることができます。
    ただし、借地契約の存続期間内の場合、地主には借地上の建物を買い取る義務はありませんので、地主が任意で応じてくれない限り、地主に買い取ってもらうのは無理でしょう

  2. (2)底地と一緒に売却する

    地主が底地(借地)の処分を考えているような場合には、地主と協力して、底地と借地上の建物をセットで売却することも有効な方法となります。
    底地と借地上の建物をセットで売却できれば、購入者は、土地と建物の双方を自分のものにすることができますので、借地権付き建物の売却よりも買い手がつく可能性が高くなります。
    ただし、底地の価格と建物の価格を明確にしておかなければ、地主との間で売買代金を分配する際にトラブルになるおそれもありますので、注意が必要です

  3. (3)借地権付き建物として第三者に売却する

    借地に建つ家は、借地人の所有物ですので、それを第三者に売却することができます。
    ただし、借地上の建物を売却する場合には、借地権の譲渡も伴いますので、前述2の(4)と同様に地主の承諾が必要になります。地主が承諾してないときには、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求めることで、地主の承諾がなくても借地権の譲渡をすることもできる可能性が高くなります。この場合も裁判所が、借地権の譲渡について許可する代わりに譲渡承諾料を支払わせる判断をすることがあるので注意が必要です。

  4. (4)借地に建つ建物を賃貸する

    借地権付き建物の売却だと購入希望者が見つからないことも少なくありません。このような場合には、借地に建つ家を賃貸することも検討してみるとよいでしょう。
    先ほどの(3)の借地に建つ家の売却では、地主の承諾が必要でしたがが、借地に建つ家を賃貸するだけの場合であれば、地主の承諾は不要です

  5. (5)更地にして土地を返還する

    借地に建つ家の売却や賃貸ができず、自分自身でも利用する予定がないという場合には、そのまま土地を借りていても地代の支払いが無駄になってしまいます。そのため、更地にして土地を返還することも検討してみるとよいでしょう。ただし家の取り壊し費用が必要になります。

4、相続人内で意見が分かれたら弁護士に相談を

借地に建つ家の相続に関して相続人内で意見が分かれたときは、弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)最適な解決方法をアドバイスできる

    借地権付きの建物が相続財産に含まれている場合、借地権の評価や遺産分割方法などをめぐって相続人同士でトラブルになることがあります。
    このようなトラブルを解決するためには、遺産相続に関する専門知識や経験が必要になりますので、まずは弁護士にご相談ください。弁護士が状況に応じて最適なアドバイスをしますので、それに従って対応することで、円満にトラブルを解決できる可能性が高くなります

  2. (2)弁護士が代理人として遺産分割協議を進めることができる

    ご自身で対応が難しい場合には、弁護士に依頼すれば、遺産分割協議の対応をすべて弁護士に任せることができます。
    当事者同士では、感情的になってしまいうまく話し合いができない場合でも、弁護士が遺産分割協議に関与すれば、お互いに冷静になって話し合いを進めることができます。また、弁護士が法的観点から適正な解決方法を提案することで、他の相続人の納得も得られやすく、スムーズに話し合いをまとめられる可能性が高くなります

  3. (3)遺産分割調停、審判、裁判になった場合の対応も任せることができる

    相続人同士の話し合いでは解決できない場合には、遺産分割調停、審判、裁判などの手続が必要になります。
    弁護士に依頼していれば、話し合いの手続きから引き続きこれらの法的手続きに関しても対応してもらうことができます。一人では不安になることも多いと思いますが、弁護士のサポートが受けられれば安心して手続きを進めていくことができるでしょう。

5、まとめ

借地に建つ家がある場合、借地上の建物だけでなく、借地権も相続の対象に含まれます。借地権を相続する場合には、地主の承諾は不要ですので、地主との間でトラブルになることは少ないです。しかし、相続した借地上の建物を処分するには、地主の承諾を得る必要がありますので、承諾や承諾料をめぐって地主とトラブルになる可能性があります。また、借地権の相続に関して、相続人どうしてトラブルになる可能性もあります。

このような借地に関するトラブルでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスまでお気軽にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています