生活保護受給者の場合、相続できる? 死亡保険金は受け取れる?
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神奈川県が公表している統計資料によると、令和2年の神奈川県内における生活保護の受給者数は、12万771世帯でした。生活保護の受給世帯数は、年々増加しており、平成23年度以降では令和2年が最も多い数字となっています。
生活保護の受給を受けている方のなかには、「相続をした場合には生活保護を打ち切られてしまう」、「生活保護を打ち切られるなら相続放棄をしたい」というお悩みを抱かれている方もおられます。生活保護が打ち切られてしまうと今後の生活が不安定になるため、生活保護と相続との関係はしっかりと理解しておきましょう。
今回は、生活保護受給者が相続する場合の注意点について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。
1、生活保護を受給していた場合、遺産相続はできるのか
まず、生活保護と遺産相続について、基本的な関係について説明します。
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(1)生活保護を受給していても相続は可能
被相続人が死亡した場合には、被相続人の遺産は、法定相続人による遺産分割協議によって相続されます。
生活保護を受給していたとしても、法律上認められている相続権が制限されることはありませんので、遺産を相続することは可能です。
ただし、後述するように、生活保護受給者が遺産を相続した場合には、生活保護の受給条件を満たさなくなる可能性があります。
つまり、生活保護が受給停止または廃止されるおそれがある、という点に注意してください。 -
(2)死亡保険金を受け取ることも可能
被相続人が生命保険に加入している場合には、被相続人の死亡によって受取人に指定されている人に対して、死亡保険金が支払われます。
死亡保険金は受取人固有の財産とされており、遺産相続の対象とはなりませんが、遺産と同様に生活保護受給者であっても受け取ることができます。
ただし、死亡保険金を受け取ったことによって生活保護の受給要件を満たさなくなった場合には、生活保護が受給停止または廃止される可能性があります。 -
(3)生活保護受給者による相続放棄は原則として認められない
生活保護受給者が遺産を相続した場合には、上記のように生活保護の受給停止や廃止をされる可能性があるため、「生活保護の受給を継続したい」という理由から相続放棄を考える方もいます。
しかし、このような理由で相続放棄をしたとしても、生活保護の受給停止や廃止といった措置をとられてしまう可能性があるのです。
生活保護法では「利用し得る資産がある場合には、それを利用すること」が生活保護の要件となっています。
生活を維持するために活用可能な遺産があるにもかかわらず、それを自らの意思によって放棄すると、生活保護の受給資格を満たさなくなってしまうのです。
ただし、被相続人の遺産がプラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合には、遺産を相続すると多額の借金を負うことになってしまいます。
生活保護費で借金の返済をするというのは本末転倒であるため、このような場合には例外的に相続放棄をすることができます。
また、資産があったとしても、農地や山林など処分が困難で財産的価値の低いものであった場合にも例外的に相続放棄をすることができます。
2、相続と生活保護に関する注意点①:相続をしたら、生活保護費を返還しないといけない場合
生活保護の受給者には、すべての世帯員の収入、資産および世帯員の構成や状況の報告が義務付けられており、状況に変化が生じた場合には、その内容を届け出る必要があります。
そのため、相続によって資産を得たという場合には、担当のケースワーカーに対して報告しなければなりません。
遺産を相続したことによって最低限度の生活を維持することができるようになったにも関わらず、引き続き生活保護費を受給し続けることは、生活保護費の不正受給にあたる可能性があります。
生活保護費の不正受給に該当する場合には、既に支払いを受けた生活保護費の返還を命じられる可能性がある点に注意してください。
福祉事務所のケースワーカーは、定期的に生活保護受給者の実態調査を行っていますので、相続によってまとまった財産を取得すると実態調査によって判明してしまいます。
悪質な不正受給に対しては、生活保護法や刑法による罰則の適用もあるので、相続により資産状況に変化が生じた場合には、必ずケースワーカーに報告しましょう。
3、相続と生活保護に関する注意点②:相続をしたら、生活保護が廃止となる場合
相続によって生活保護が廃止になるケースとしては、以下のようなものがあります。
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(1)相続による資産増加によって生活保護の条件を満たさなくなった場合
生活保護は、本人や世帯員が利用することができる資産などを活用したとしてもなお最低限度の生活を維持することができない場合に支給されるものです。
このように、生活保護とは、あくまでも補充的なものです。他に資産がある場合には、生活保護よりも資産の利活用が優先されることになります。
相続によって現金や預貯金を得た場合や売却することが可能な不動産を取得した場合には、それらの資産の活用が見込まれます。そのため、「保護を必要としなくなったとき」(生活保護法26条)に該当し、生活保護が廃止される可能性があるのです。
なお、生活保護の廃止によって、生活保護受給者としての資格もなくなってしまいますが、その後に遺産をすべて使い切ってしまい、再び生活が困難な状況になった場合には、再度生活保護の申請をすることによって、生活保護を受けることができるようになります。 -
(2)生活保護費の不正受給が発覚した場合
生活保護受給者には資産や収入についての報告義務がありますので、資産などに変動が生じた場合には、担当のケースワーカーに報告しなければなりません。
相続によって資産を得たにもかかわらず、それを隠して生活保護を受けていた場合には、不正受給に該当しますので、当然、生活保護についても廃止されてしまいます。
また、相続によってプラスの財産を得ることができる見込みがあったにもかかわらず、相続放棄すると利用できる資産の活用を放棄したことになりますので、生活保護が廃止される可能性があるのです。
4、遺産相続手続きの流れ
生活保護受給者が遺産を相続する場合の流れは、以下のようになります。
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(1)ケースワーカーや弁護士への相談
生活保護受給者が遺産を相続する場合には、生活保護の受給要件との関係で慎重な対応が求められます。
遺産を相続するかどうか、相続した場合にどのような手続きが必要になるのかを正確に理解するためにも生活保護受給者が遺産を相続することになった場合には、まずはケースワーカーや弁護士に相談してください。 -
(2)相続人調査
遺産を相続するためには、相続人による遺産分割協議が必要になりますが、遺産分割協議を有効に成立させるためには、相続人全員の同意が必要になります。
相続人のうち1人でも欠いてしまうと遺産分割協議は無効になってしまいますので、遺産分割協議の前提として相続人が誰であるかを確定させなければなりません。
具体的には、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本などを取得して相続人を明らかにしていく必要があります。 -
(3)相続財産調査
相続人が相続する遺産にはプラスの遺産だけでなくマイナスの遺産も含まれるため、相続をするか、それとも相続放棄や限定承認をするかを適切に判断するためには、正確な相続財産調査が必要になります。
相続放棄をする場合には、相続開始を知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
被相続人の死亡を知った場合には、早めに相続財産調査に着手するようにしましょう。 -
(4)遺産分割協議
相続人調査および相続財産調査が終了した段階で、相続人による遺産分割協議を行います。遺産分割協議というと相続人全員が一堂に会する必要があると考える方も多いですが、分割方法について相続人全員の合意が得られれば、電話や手紙やメールなどで話し合いをすることも可能です。
遺産分割協議が成立した場合には、その内容を遺産分割協議書にまとめて、すべての相続人が実印によって押印をしたうえで、印鑑証明書を添付します。 -
(5)相続手続き
遺産分割協議が成立した後は、各遺産について相続手続きを進めていきます。
預貯金であれば銀行での払い戻し手続き、不動産であれば法務局での相続登記が必要になります。
5、まとめ
生活保護者が相続人になる場合には、相続財産を受け取ることによって、生活保護の受給要件を満たさなくなる可能性があります。
「生活保護を継続したいから」という理由があっても、相続放棄をしたり、資産の申告を怠ったりしてしまうと、生活保護を廃止されたり既に受け取った生活保護費の返還を求められたりするリスクもありますので注意が必要です。
遺産相続に関して悩まれている方は、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています