相続手続に必要な書類を、手続きの流れとともに解説

2023年01月17日
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相続手続に必要な書類を、手続きの流れとともに解説

身近な方が亡くなると、役所の窓口で死亡届の提出などさまざまな手続きが必要になります。藤沢市役所のウェブサイトでは「家族が亡くなったときの手続き」の案内がありますが、保険や年金、税金関係の諸手続きは手間がかかり大変です。

そして、役所での手続きがひと通り終わった後には、今度は相続の手続きが始まります。相続手続きといえば親族間の話し合いをイメージされるかもしれませんが、話し合いを開始する前の下準備や各種手続きのためには、さまざまな書類が必要になります。

相続や書類作業に不慣れな方は、どのような書類が必要でありどこで取得すればいいのかが分からず、困ってしまう場合もあるでしょう。本コラムでは、相続手続きで必要な書類について、ベリーベスト法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。

1、相続手続きで書類が必要な理由

まずは、相続手続きで書類を収集する目的や理由について解説します。

  1. (1)相続人であることを証明するため

    相続権は、亡くなった方(被相続人)と一定の親族関係にある方に発生します。
    相続による財産の権利変動は第三者へも影響を及ぼすため、「誰(と誰)が相続人なのか」ということと「ほかに相続人はいない」ということを証明しなければなりません。
    相続権に影響する親子関係や婚姻関係は戸籍に記載されるため、相続人であることの証明は戸籍によって行う必要があるのです

  2. (2)相続財産の権利関係を把握するため

    相続の対象となるのは被相続人(亡くなった方)に属する財産と債務です。
    どの財産が相続の対象なのか、その財産に抵当権や賃借権などが設定されていないか、書類で確認できるものは書類を収集して確認しておく必要があります。

  3. (3)相続財産の資産価値を評価するため

    相続財産には、現金や預貯金のように資産価値が明らかなものもあれば、不動産や自動車、貴金属のように市場価格や課税価額などで資産価値を評価しなければならないものもあります。
    複数の相続人で公平に遺産を分割しようとする場合には、財産の資産価値を目安にして分割することが合理的です。
    また、相続税の納税義務や税額はすべての相続財産の資産価値により決められます。
    相続税の申告・納付期限は、基本的に被相続人が亡くなってから10カ月以内とされているため、申告手続きや納税資金の準備の必要性についてあらかじめ把握しておくことも重要です。
    上記の理由から、相続財産の資産価値を評価するための書類を収集しておく必要があります

2、相続手続きを開始した時に必要な書類

以下では、相続手続きの流れを左右する遺言書と、相続手続きの当事者となる相続人を調査するために必要な書類について解説します。

  1. (1)遺言書の有無を確認

    遺言は被相続人の最終的な意思として、相続手続きでも尊重されます。
    遺言は、民法の規定により、必ず書面によらなければなりませんが、遺言書は自宅や貸金庫などに保管されていることもあれば、法務局や公証役場で保管されている可能性もあります。
    自宅などで封書入りの遺言書が発見された場合には、家庭裁判所の検認手続きにより開封する必要があります(公正証書遺言を除く)。
    勝手に開封してしまうと過料の制裁(5万円以下)を受けることがある点に注意してください

    相続手続きは、遺言書の有無、遺言の内容によって大きく変わるため、最初の段階で遺言書の存否を確認する必要があります。

  2. (2)相続人確定のための戸籍収集

    相続権は被相続人との親族関係により決まるため、被相続人の戸籍を収集する必要があります。
    戸籍は制度や様式の変更により作り替えられたり、婚姻や離婚、転籍などによって新戸籍や旧戸籍へ移動したりしています。
    そのため、出生や婚姻、離婚、子の認知や養子縁組など、相続権に影響する身分行為の有無を調べるためには、被相続人が亡くなった時点の戸籍だけではなく、改製前の戸籍や除籍された戸籍も収集しなければならないのです。

    戸籍関係の書類は本籍地の市区町村役場で交付してもらえますが、相続関係が複雑な場合には、「戸籍の束」と表現されるほどに大部の戸籍が必要になることもあります
    相続手続きでは、戸籍関係の書類が必要になる場面が多く、そのたびに戸籍を取り直したりコピーしたりするのも大変な手間なので、法定相続情報証明制度を利用する方法もあります。
    法定相続情報証明制度とは、法務局へ必要な戸籍や法定相続情報一覧図を提出することにより、登記官が認証した相続関係の証明書を交付してもらえるというものです。
    この証明書は、相続に関する手続きで、公的機関や多くの金融機関などで相続権の証明として使うことができます。

3、相続財産に関する書類

相続財産の権利関係や資産価値に関する書類について、財産の種類ごとに解説します。

① 不動産

財産の種類 書類 書類の取得先 用途
不動産(土地・建物など) 不動産登記事項証明書 法務局 不動産の権利関係を確認
固定資産評価証明書 不動産所在地の市役所・市税事務所・東京都税事務所 資産価値を確認
移転登記で使用
名寄帳 不動産所在地の市役所・市税事務所・東京都税事務所 被相続人が所有する不動産を調査

不動産に関する権利関係は、不動産登記簿で公示されているので、法務局で不動産登記事項証明書を取得します。
不動産登記情報はオンライン化されているため、全国の法務局で証明書の取得することができますが、不動産の所在地、地番、家屋番号は権利証などで正確に把握しておく必要があります。
なお、登記がされていない建物も相続の対象となりますが、これを相続した相続人は表題登記を申請しなければならない点に注意してください

不動産の資産価値は、市町村役場(東京23区の場合は東京都税事務所)が管理する固定資産課税台帳の評価額が一つの基準となります。
相続人へ登記名義を変更する際にも必要となるため、固定資産評価証明書を取得しておくとよいでしょう。
また、被相続人が所有する不動産が特定できない場合には、同一市町村内の固定資産課税台帳を所有者ごとに一覧化した名寄帳を取得して調べる方法もあります。

② 預貯金・有価証券

財産の種類 書類 書類の取得先 用途
預貯金 残高証明書 金融機関 資産価値を確認
取引履歴明細 金融機関 生前贈与などの資金移動を確認
国債・社債・株式・投資信託・デリバティブ商品 取引残高報告書・配当金支払通知書 証券会社・金融機関など 資産価値を確認
登録済加入者情報通知書 証券保管振替機構 被相続人名義の証券口座などを調査

預貯金や有価証券は、通帳や取引残高報告書により確認することが可能です
インターネット上で口座を開設している場合は、これらの書類が手元にないこともあります。
金融会社や証券会社に連絡して名義人が亡くなったことを伝えるとともに、解約に必要な書類を合わせて案内してもらいましょう。

有価証券などの取引口座の有無が分からない場合には、証券保管振替機構へ問い合わせると、口座の情報が判明することもあります。

③ その他の財産

財産の種類 書類 書類の取得先 用途
自動車 自動車検査証・車庫証明書 (自動車の使用者が保管) 自動車の権利関係を確認
未払い給料・退職金 源泉徴収票 勤務先 金額を確認

被相続人が所有していた自動車を相続人が引き続き使用する場合や第三者へ譲渡する場合は、陸運局(軽自動車の場合は軽自動車検査協会)で名義変更の手続きが必要です。
合わせて、自動車保険(任意保険)についても保険会社での手続きも、別途に必要となります

4、遺産分割に必要な書類

ここまでの書類収集は、遺産分割協議をスムーズに行うための下準備です。
遺産分割協議は、複数の相続人がいる場合に、誰が何を相続するのかを話し合いにより決める手続きであり、全相続人の合意により成立します
なお、遺言があり、その内容が特定の財産を特定の相続人に相続させるというものである場合、その財産については遺言のとおり相続することになるため、基本的に遺産分割をする必要はありません。

遺産分割協議が成立すると、合意内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には決まった様式はありませんが、おおむね次のような事項を記載することが一般的です。

  • 被相続人の特定事項(最後の住所、氏名、死亡日)
  • 相続人全員の合意により分割協議が成立した旨の序文
  • 相続人の誰がどの財産を取得するのかといった合意事項
  • 協議書を何通作成し、誰が所持するのかといった後文
  • 作成日
  • 全相続人の住所、署名、実印
  • 添付書類として全相続人分の印鑑証明書


遺産分割協議が成立すると、相続の開始時にさかのぼって、相続財産の権利が被相続人から各相続人へ移転したことになります。

遺産分割協議書は、相続により権利関係が変動したことを対外的に証明するための重要な書類です
誤字や脱字があったり、財産の特定が不正確だったりすると、名義変更ができないこともあるので、不動産登記事項証明書や金融機関の残高証明書などをよく確認し、その記載どおりに作成しましょう。

5、実際に財産を分割する際に必要な書類

不動産や預貯金、有価証券、自動車などを相続した相続人は、名義変更の手続きを行う必要があります。
名義変更手続きで共通して必要な書類には以下のようなものがあります。

  • 遺産分割協議書
  • 相続関係を証明する戸籍(または法定相続情報証明書)
  • 印鑑証明書


加えて、財産の種類に応じて、以下のような書類も必要になるのです。

  • 不動産は登記申請書と固定資産評価証明書
  • 預貯金や有価証券は金融機関所定の解約依頼書
  • 自動車は自動車検査証、車庫証明書


なお、不動産を相続した場合に相続登記を義務化する法改正が令和6年4月より施行されます。
相続の開始および相続により不動産を取得したことを知った日から3カ月以内に相続登記申請をしないと、10万円以下の過料の制裁に処せられることがあります
この規定は令和6年4月以前の相続にも適用される点に注意してください。

6、相続手続きは弁護士に依頼したほうが良い理由

相続手続きは、書類の収集の部分だけを見ても、大変な作業だといえます。
しかし、相続税の納付期限(10カ月)などを考えると、あまり時間をかける余裕もありません。
さらに、遺産分割協議では意見の相違により話し合いが進まないこともあり、解決するには法律知識が必要になる場面が少なからずあります

相続手続きについて専門家のサポートを受けたいとお考えの場合は、書類収集のサポートから遺産分割における交渉、裁判所の手続きの代理まですべてを任せることができる弁護士にご相談ください。
また、相続では相続税対策や不動産登記など法律分野以外の専門知識が必要になる場面もあり、税理士や司法書士などのサポートが必要になる場合もあります。
ベリーベスト法律事務所では、全国展開している総合法律事務所の強みをいかして、相続に関するノウハウを共有しており、さらに提携する税理士や司法書士がチームとなってお客さまをサポートするワンストップサービスを提供しております
お客さまのニーズに応じて、事業承継など各種専門チームと連携したサポートを行います。

7、まとめ

本コラムでは、不動産や預貯金などの遺産を複数の相続人で分割する一般的な相続モデルにおける書類の収集について解説しました。
相続手続きにおける書類の収集は、いわば遺産分割や取得した遺産の名義変更のための下準備といえますが、後の手続きを滞りなく進めるためには重要な作業です。
身近な方が亡くなると、遺品の整理などで慌ただしい日が続きますが、相続手続きを避けることはできません。

「何から手を付ければいいのか分からない、専門家のサポートを受けたいけど書類集めについても相談に乗ってもらえるのか分からない」という方は、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください

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