相続人となる直系尊属とは? 相続分や相続順位について弁護士が解説

2022年09月27日
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相続人となる直系尊属とは? 相続分や相続順位について弁護士が解説

内閣府が公表した「高齢社会白書」によると、日本における65歳以上の高齢者人口は3589万人となり総人口に占める割合も28.4%を占めるとのことです。藤沢市の高齢者人口の割合は、令和3年6月時点で約33.3%と、全国的に見ても高い水準にあります。今後も、高齢化が進んでいくでしょう。

さらに、平成19年に日本で生まれた方(令和3年現在の14歳)の半数は107歳より長く生きるという研究もあり、本邦は全国的に「人生100年時代」の長寿社会を迎えようとしています。

さて、相続は次世代への財産の引き継ぎが基本的なモデルですが、次世代の相続人がいない場合は、直系尊属が相続します。長寿社会となり、4世代が共存することも珍しくなくなる社会では、直系尊属が相続人となる機会も増えていくでしょう。

本コラムでは、「直系尊属とはなにか」「どのような場合に直系尊属が相続人となるのか」といった点について、相続の基本的なルールとあわせて、ベリーベス法律事務所 湘南藤沢オフィスの弁護士が解説します。

1、直系尊属とは?

民法では、子に次ぐ第2順位の相続人として「被相続人の直系尊属」を規定しています(民法889条1項1号)。
「被相続人」とは亡くなった方のことをいいますが、「直系尊属」とは「直系」の「尊属」という2つの用語からなる言葉です。
以下では、「直系」と「尊属」のそれぞれの意味と、直系尊属が相続人となる場合について解説します。

  1. (1)直系とは?

    「直系」とは親族関係における系統をさす用語で、親子関係の血筋でつながる関係です。
    祖父母から親、子、孫、ひ孫へと連なる縦の親族関係ということもできます。
    なお、相続で問題となる親子関係は必ずしも自然血縁関係だけで形成されるわけでありません。
    以下のように、自然血縁関係と法律上の血縁関係が必ずしも一致しないこともあるのです

    • 養子縁組が成立すると、赤の他人同士であっても法律上の親子関係、親族関係が生じる
    • 婚姻していない父母の間に生まれた子は、認知届を提出しなければ法律上の父子関係は認められない(相続権もない)


    親族に関する用語を整理すると、次のようになります。

    血族
    (血縁関係あり)
    直系
    (親子関係でつながる)
    親、祖父母、子、孫など
    傍系
    (先代から枝分かれした系統)
    兄弟姉妹、伯父叔母、いとこなど
    姻族
    (婚姻により形成)
    義理の親など
    (配偶者の血族)


    なお、民法では、6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族を親族と規定しています(民法725条)。

  2. (2)尊属とは?

    尊属は「卑属」と対になる用語で、本人からみて世代の先後によって使い分けられます。
    本人からみて先祖にあたる世代を尊属、子孫にあたる世代を卑属といいます。
    兄弟姉妹やいとこは、世代としては本人と同じなので、年齢に関わらず尊属でも卑属でもありません。

  3. (3)相続人となる直系尊属は?

    直系尊属とは、親子関係でつながる血族の上の世代で、親や祖父母ということになります。
    なお、相続人となる直系尊属について、民法889条1項1号ただし書きでは「親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。」とされています。

    上の世代へ相続をする場合は、もっとも近い世代へ相続することとされているのが特徴です。
    直系尊属が複数人いる場合は、親、祖父母、曾祖父母(そうそふぼ)の順に相続人が決まります。
    たとえば、父親と母方の祖母が存命の場合、世代が近い父親が相続人となり、父親が相続放棄をした場合は、次順位の祖母が相続人となるのです。
    また、両親ともに健在の場合は、同世代の相続人が複数人いることになるので、両親が共同相続することになります。

  4. (4)養子が亡くなった場合の直系尊属は?

    養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組がありますが、ここでは普通養子縁組における関係を解説します。
    普通養子縁組をすると、養子は養親を介して養方との親族関係が形成されますが、実方との親族関係も存続します。
    養子が亡くなって直系尊属が相続することになった場合、養方と実方両方の尊属に相続権が発生するので注意が必要です

2、法定相続人の範囲と相続の順位

法定相続人について、その親族の範囲と相続の順位を解説します。

  1. (1)血族相続人

    被相続人の血族は、次の優先順位により相続人が決まります。

    ① 被相続人の子(第1順位)
    被相続人に子がいる場合は第1順位の相続人となります。
    養子、婚外子、前婚でもうけた子も同等の相続権があります。
    被相続人よりも先に子が亡くなっている場合や、法律の規定により相続権を失った場合(廃除、相続欠格)は、代襲相続が発生します。なお、相続放棄では代襲相続が発生しません。
    「代襲相続」とは、亡くなったり相続権を失ったりした人に代わって相続することで、直近の卑属(被相続人からみた孫)が相続人となります。
    また、子の卑属もなくなっている場合は子の卑属の卑属へと再代襲を繰り返します。

    なお、代襲相続人は被相続人の直系卑属でなければなりません。
    子の卑属が直系卑属ではないケースというのは、養子縁組の場合に起きることがあります。
    養子縁組をした後に養子の子が誕生した場合、その子も養方の血族となり、養親の孫(直系卑属)となります。
    一方、養子縁組の前に出生していた養子の子は養方の血族にはならず、養子の卑属ではあっても、養親の卑属ではないという立場になるためです。

    ② 被相続人の直系尊属(第2順位)
    前章で解説したとおり、相続人となる直系尊属は、一親等の父母、二親等の祖父母、三親等の曾祖父母(そうそふぼ)の順にもっとも近い世代となります。

    ③ 被相続人の兄弟姉妹(第3順位)
    被相続人の両親または片方の親が共通する兄弟姉妹が第3順位の相続人となります。
    被相続人より先に兄弟姉妹が亡くなっている場合、兄弟姉妹の子の世代まで代襲相続が認められます。
    かつては、兄弟姉妹についても代襲相続の範囲に制限はなく、兄弟姉妹の孫なども代襲相続が可能でしたが、昭和55年の法改正によって兄弟姉妹の代襲相続は一世代までとされました。

    なお、代襲相続するためには、被相続人と親族関係(傍系卑属)になければならないのは①の場合と同様です。
    兄弟姉妹が養子の場合に、養子縁組の時に出生していた養子の子は代襲相続人とはなりません。

  2. (2)配偶者

    被相続人に配偶者がいる場合は、血族相続人とともに常に相続人となります。
    相続開始の時点(被相続人が亡くなったとき)において法律上の婚姻関係にあれば、配偶者として相続権が認められます。

    一方、内縁関係など実質的に夫婦同様の関係にある場合でも、法律上の婚姻関係がなければ相続権はありません
    逆に、実質的に形骸化した夫婦関係であっても、法律上の婚姻関係が存続していれば、相続では配偶者としての地位が保護されることになります。

3、法定相続分とは?

法定相続人には、法定相続分と遺留分に応じた権利が認められます。
そのうち法定相続分について解説します。

  1. (1)法定相続人の法定相続分

    法定相続分は相続財産を相続する割合で、法定相続人となる血族相続人の順位に応じて割合が決まります。
    なお、血族相続人が一人もいない場合は配偶者が全部相続し、配偶者がいない場合は血族相続人の均等割りとなります。

    法定相続分は次のとおりです。

    優先順位 血族相続人 血族相続人の法定相続分 配偶者の法定相続分
    第1順位 2分の1 2分の1
    第2順位 直系尊属 3分の1 3分の2
    第3順位 兄弟姉妹 4分の1(※) 4分の3


    (※被相続人に子、直系尊属がいなく、被相続人の兄弟姉妹が相続をする場合、被相続人の片方の親のみ共通する兄弟姉妹(半血相続人)の相続分は、被相続人の両方の親を共通にする兄弟姉妹の2分の1)

  2. (2)法定相続分とはどのような権利?

    法律で決まる相続割合というと他の相続人にも主張できる具体的な権利のようにイメージされるかもしれません。
    しかし、法定相続人が複数人いる場合は、遺産分割協議によって誰が何を取得するのかを定める必要があり、法定相続分はその際の目安として機能するに過ぎません

    民法では、遺産分割の方法について次のように規定しています。

    (民法906条)
    遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。


    つまり、法定相続分は遺産分割協議で考慮される一要素ではあっても、絶対的な指標ではないということです。
    ただし、遺産分割協議が難航し、最終的な手段として家庭裁判所の審判手続きにより遺産分割をすることになった場合は、法定相続分に沿った分割となるのが一般的です。

  3. (3)借金は原則として法定相続分どおり分割される

    被相続人に借金がある場合、プラスの財産と同様に借金も相続の対象となります。
    マイナスの財産である借金は、相続開始の時点で直ちに法定相続分に従って各相続人が相続することになります。

    遺産分割協議により、特定の相続人が借金を引き継ぐ合意をすることも可能ですが、債権者の同意がなければ、債権者に合意の効力を主張することはできません
    債権者としては、資力のない相続人が借金を引き継ぐことになると債権の価値が毀損(きそん)することになり、公平を害することになるからです。

4、遺留分と法定相続分の違い

遺留分とは、法定相続人に保障される最低限の相続分であり、遺族の生活保障として機能するものです。遺言によっても奪うことはできません。
そのため、遺留分と法定相続分には次のような違いがあります。

  • 遺留分は配偶者と第2順位までの血族相続人に認められる(兄弟姉妹に遺留分はない)
  • 被相続人であっても遺留分を制限することはできない
  • 相続した財産が遺留分に満たない場合は、他の相続人に金銭で補塡(ほてん)を請求することができる


遺留分として保障されるのは、直系尊属のみが相続人である場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1となります。

5、まとめ

第2順位の血族相続人となる直系尊属は、被相続人ともっとも近い世代が相続人となるという特徴があり、被相続人より先に亡くなった直系尊属がいる場合でも代襲相続は発生しません。
同世代の直系尊属が複数人いる場合や、配偶者がいる場合は、共同相続人となり、遺産分割協議を行う必要があります。また、直系尊属にも最低限の相続分として遺留分が認められています。

相続の当事者となった場合、相続財産の調査から遺産分割協議、相続財産の名義変更、相続税の申告手続きなど、行うべきことは少なくありません
時間的、体力的に厳しいと感じられる場合や知識に不安があるという場合には、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています